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普段行く安いドラッグストアは21時には閉まってるから、24時間開いてるドラッグストアの方までやって来た。 自転車で15分程だけど、この時間なら半額のものがあったりするから、そっちが目当だ。 自転車置き場に駐めてから、店内へと入る。 ふっと、いつも買う店とは違うからどんな皮膚病の薬があるのか気になって、その陳列棚へと立って眺める。 「( 成分表…… )」 持ってきていたスマホをポケットから取り出し、 今までで、なんとか使えた少し高めの薬のパッケージの裏を写メってるから、それを見る。 店が違えば、取り扱ってる物も少し違ってくる為に、一つ一つ確認が必要になってくる。 「( これは痒くなったやつと似た成分だ…。だめだね… )」 ダメだった物は元あったところに返して、もう一度他のを手に取り、ふっと余り見かけなかったものを見る。 「 …カンジタ症(皮膚真菌感染症)…?いや、流石にこれは違…… 」 「 何かお困りですか? 」 「 へっ…? 」 急に話し掛けられた声に情けなく、拍子抜けた声を漏らして視線を持ち上げると、そこにはスラッとした長身に黒髪でサラサラのビジネスショートをした琥珀の目を持つ男性が、軽く傾げて問いかけて来た。 「 いや、えっと…… 」 薬剤師の格好ではなく、只のスーツ姿の男性だったから戸惑って視線を泳がしていれば、彼は告げる。 「 薬剤師の資格を持っていますので、困っていましたらお聞きできますよ?何やら此処の薬剤師さんは、他の方で忙しいみたいなので 」 そういえばさっき、ちらっと他の老人のお客さんに捕まってる薬剤師さんっぽい白いクリニックユニフォームを着てた人がいた気がする…。 「( 薬剤師の資格……。でもな… )」 ユニフォーム着てる人ならまだしも、スーツ姿の男性に、皮膚に関して聞くのは抵抗がある。 だから少し持っていた薬を見て、話の中から合いそうなのを導けるか、やってみようと思った。 「 例えば…この、皮膚カンジタ症って、アトピー性皮膚炎とかに使えますか? 」 「 そうですね…。カンジタ症はカンジダ属の真菌…カビによるもので、簡単に言えば水虫とか口角炎なんです 」 「 ………あー……なるほど 」 彼は、私が持っていたのと同じものを陳列棚から取れば、その裏を見て言葉を続けた。 「 えぇ、なのでアトピー性皮膚炎の様に皮膚の機能が低下して、外部からの刺激によって出来るものとちょっと違うんですよね…。痒みがあるんですか? 」 問われた言葉に、持っていたものを陳列棚に戻して、自然と左腕の方を触る。 「 はい…。痒くて…でも、大半のものは弱くてかぶれるから、こういった赤ちゃん用の塗り薬を使うんです 」 「 抗ヒスタミン成分がいいですが…炎症を引き起こしてるなら、痛みが含まれる尿素のが無いのがいいですよ。この非ステロイド剤の鎮痒消炎薬とかどうですか? 」 彼は僅かな量しか入ってない、1本1000円を超えるものを手に取れば、それを見せてきた。 スマホを片手に、効果があったやつと見比べれば殆ど成分は一緒だ。 「 使ったことないけど、良いかも知れません…でも、これを買える予算が無くて 」 「 予算…。私が買いましょうか? 」 「 え、あ…それはいいです!またお金がある時に買いますから 」 パッケージでさえ、覚えていたら買えるからって思って否定すれば、彼はもう一度成分表を見た。 「 分かりました。他に困ってることありませんか? 」 「 他…味覚障害とか…亜鉛不足らしいです。皮膚病なので… 」   「 なるほど、亜鉛なら… 」 「 あ、でも…大丈夫です!これ今度買ってみますし。買い物途中なのに…引き止めてしまってすみません。ありがとうございました! 」 彼と話していたら、本格的に医者や薬剤師さんと会話してる雰囲気あったから、出来るだけ早く離れようと片手を振れば、彼はじっと私を見下げてから微笑んだ。 「 分かりました。此方こそ引き止めてしまって申し訳ありません 」 「 いいえ、色々助かりました 」 使えそうな薬があっただけ、収穫だと思う。 沢山御礼を言ってから、彼の方から先に買い物に戻った後に陳列棚にある薬を見てから、買い物をする。 大豆がいいってことは知ってるから、半額の納豆と野菜ジュース、そしてお母さん用の菓子パンを購入し、私の分の焼肉入りのおにぎりを持ってレジへと行く。 先に買い物を終えた彼を遠目で見てから、薄いビニール袋に入れ、外に出る。 「 御前、アイス程度に遅いんだよ 」 「 すみません…。確かこの辺りに… 」 「 何探ってんだ? 」 「( お連れの人いたんだ…。てか、片方の人…怖そう… )」 自転車置き場に行こうとすれば、黒塗りの高級車にさっきの人は居たけど、車に凭れて市販のアイスを食べてる人の横で、何やら探っていた。 車内のライトをつけたりしてる様子は遠くからでも見て分かるけど、余り人様を見ると良くないと思い、視線を逸らす。 空腹が限界値を達して、私もおにぎりでも食べようかとしていれば、背後で話し声がする。 「 これ、上げちゃってもいいですよね? 」 「 別にいいが…てか、誰にだ? 」 「 ちょっと…… 」 何か話してる。 そんな程度で自転車の側にいれば、いつの間にか男性はこっちに歩いて来た。 「 さっきの方ですよね? 」 「 !?は、はい…… 」   また突然と声が掛かった事に驚いておにぎりを持ったまま振り返ると、彼は持っていたものの一つを差し出してきた。 「 先程の薬とは違いますが、成分はほぼ同じようなものなので、これを使って見てください 」 「 え……いいんですか? 」 受け取るのを拒否しかけたけど、目の前で購入されてないってことに、ちょっとだけ受け取ってもいいのでは?と思ってしまったんだ。 「 もちろん。効果があればいいんですけど… 」 「 ありがとうございます…。試してみます 」 何処に売ってるのか分からないけど、おにぎりをポケットに入れてから、受け取ってパッケージを見る。 端には、見覚えのある熊さんマークがあった。 「( あ、これ…安いのだけど、使ったことあるやつだ )」 赤ちゃん用ので、安いのがあったから使ったことがある。 それとパッケージが似てる気もすると眺めていると、彼は他にも差し出す。 「 良かったら、これもどうぞ。亜鉛不足らしいので牡蠣エキスのサプリです。普段俺が使ってるやつですけど 」 「 へ……。ありがとうございます… 」 「 連続の徹夜明けでもなんとか生きていけるぐらい元気になるのでオススメです。後は…ニキビ用の薬も効果あるので、こちらも。どちらも一日一錠を服用してください 」 「 こんなに、沢山いいんですか? 」 貰うには申し訳ないほどに、サプリもニキビ用の薬も、未開封品だったから驚いて見上げれば、彼は緩く頷く。 「 えぇ、困ってる人がいれば助けるのは当たり前のことですから 」 「 ……凄いですね…ありがとうございます 」 私には、そんな事は出来ないな…。 そう思って、ちょっと感心して俯いていれば、僅かな足音と顔を上げてしまう程の匂いに気付く。 「 何だ、個人的宣伝か? 」 「 それもありますが…単純に、お困りだったようで気になっただけです 」 「 ほぅ…… 」 珍しい、そう呟いた男は彼の方から視線を、私の方へと落とした。 「「 ………!! 」」 視線が重なった瞬間…。 脳内に警告音が鳴り響く。 恐怖心に息が詰まれば、彼は薄暗い場所でも分かりやすく、眉間にシワを寄せる。 「 御前が…俺の(運命の)番だったのか 」 ローアンバーの髪色に焦げ茶の瞳をし、センターパーマをかせた男は、心底嫌そうに告げた。 その言葉に、奥歯を噛み締めて俯けば、隣の彼は驚いたように私達を交互に見る。 「 え、そうなんですか?オメガに…見えませんでした 」 「 っ…… 」 そう、だろうね……。 私は一見、オメガではない。 凹凸ある身体付きでも無ければ、可愛らしい容姿もしてない。 髪が長く無ければ、男と間違えられる程の身長でさえある。 シューズを履けば170cm近い身長だが、 体格も恵まれたアルファからすれば、低いのだろう…。 見下げてくる視線が心を突き刺して、痛い。
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