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02
この世界には、男性•女性に加えて、
α •β •Ω──【第二の性】が存在する。
生まれながらにエリート気質かつ、リーダーに優れたアルファ性。
その真逆、特徴故に差別的対象として虐げられるオメガ性。
そして最後に格差社会の中で、圧倒的数の多く、平凡な生活が約束されるベータ性。
数の少ないアルファ性と言われてるが、オメガ性はそれよりも更に少なく、その存在は絶滅危惧種と呼ばれてる。
その理由が、近年では圧倒的エリート気質であるアルファの側にオメガが居れば、そのフェロモンでアルファが仕事が手に付かない等の事が起こりうる為に、
アルファが結婚相手を同じ立場のもの又は平凡なベータを選ぶ場合が多く。
ベータもまた、同じベータと結婚するのが一般的だ。
オメガの多くは其の性質故に、誘惑する娼婦や妊娠に特化した代理出産を行う者だと、表向きでは余りいないからでもある。
通常オメガの女は、女性ホルモンが他より多く胸や臀部が大きくなりやすく、トランジスタグラマーである人が多い。
男性の場合は、華奢で線が細く、女の子と間違えられる人もいるけど…。
私は丁度…幼い頃から、家が貧乏だった事もあり、
満足な食事を取れる環境では無かったから、貧相な身体付きに成長した。
そのお陰で、オメガが悩む発情期も無ければ、アルファのフェロモンに当てられることもない。
分からなければベータと思われるほどだ。
現に、薬剤師の資格を持ってると言う彼は私はベータだと思っていたようだからね。
「 嗚呼、間違いなくオメガだ。其れも…俺の運命の番だろ 」
「 運命の番……彼女が? 」
「( 運命か…… )」
遺伝子的相性が100%の者を言う。
オメガは比較的にアルファ相手には、恐怖心を覚えるから分からないが、
アルファは野生の名残りから、一目を見ただけで分かるらしい。
オメガの数が減った今、都市伝説とまで言われてる
【運命の番】が、こんな形で巡り合うとは思わなかった。
「 答えろ。御前…名はなんだ? 」
「 …あの、これありがとうございました。使わせてもらいますね 」
答える必要もない。
この人と私はなんの関係もない赤の他人。
そんな都市伝説を真に受ける程の子供じゃない。
「 え、あ、はい。合わなかったら直ぐに止めてくださいね? 」
「 そうさせて貰います。では… 」
貰ったものを自転車のカゴに入れていたビニール袋へと突っ込んで、早々に自転車のロックを解除して走り出そうとした。
「 おい、待て 」
いつの間にか前へと移動した男は、ガシッと前カゴを掴んだ。
「 チャリって事は、この辺りに住んでるのか? 」
「 そう言うの…関係あります? 」
少しキツい言い方になったが、彼等と私は関係ない。
これ以上、踏み込まれたく無くてハンドルを握る手に力を込めながら、睨み返す。
「 大有りだ。俺は御前に興味が湧いた。匂いからして番もいないんだろ…。それに、運命の番は居ないもんだと思っていたのに居たんだ。遺伝子的相性がどれだけいいのか…気になる 」
この男は…初対面の相手によく、そんな事を言えると思った。
「 セクハラですね。生憎、私には付き合ってる人が居るので諦めてください 」
「 は? 」
番が居なくても、流石に恋人が居ると言えば諦めると思って、其の場しのぎのデマカセを言えば、分かりやすく硬直したのを見て、早々に自転車を押して立ち去る。
「 おい、待て!まだ話は終わってねぇだろ! 」
「( そんなの知らない…。関係ない… )」
私には関係ない…。
彼等は車だから、きっと追い掛けると思ったから、急いで逃げようと自転車に跨ろうとした瞬間──ピキッ。
「 ッ〜〜! 」
「 おい、どうした?! 」
一番忘れてはいけない事を思い出し、その痛みで咄嗟に自転車から下りれば、足首へと触れる。
働けなくなった原因がここにある…。
「 腹痛ですか!? 」
「 ちが、っ…… 」
去年の年末にやらかした、右足首のアキレス腱断裂。
ゆっくりと自転車を漕ぐだけならいいけど、急激な動きは痛むから、如何しても筋の痛さに身動きが取れなくなった。
引き攣るような痛みを堪え、足首を指先で擦っていれば、気づいたらしい男は告げる
「 足首を痛めてるのに、自転車に乗っていたのか? 」
「 ゆっくりすれば…平気だったから… 」
長時間歩くことや立つことが出来なくなって、立ち仕事の仕事場では、如何しても邪魔な存在になった。
座って出来る仕事を探していたけど、オフィスに務めていた経験も知識もない者は雇っては貰えない。
他の仕事も、中々無い為に…
辞めてからお母さんに負担をさせてしまっているんだ。
「 狐塚、湿布持ってきてやれ 」
「 はい! 」
「 大丈夫です…!本当、もう…! 」
車の方へ戻ろうとした彼を止めれば、ゆっくりと立ち上がる。
変に動いたせいで痛みはあるけど、帰れない程じゃない。
「 本当に大丈夫なのか?家まで送ってやる事もするぞ 」
「 御遠慮します。これ以上…貴方方に関わるのも申し訳無いので… 」
薬まで貰って、尚且つ他の事まで…なんて、図々しいにも程がある。
只でさえ相手はアルファだから、余り下手な事はしたくない。
「 別に俺達は気にしないけどな? 」
「 えぇ、勤務上がりでもありますから 」
「 だったら尚の事、早く家に帰ってゆっくりして下さい。薬だけで十分なので…本当にありがとうございました 」
改めて深々と頭を下げて、自転車を押して歩く。
「 っ……… 」
一歩歩く度に痛みが走り、二歩目になると足首を伸ばすだけで激痛が走る。
こんな事なら、包帯やらサポーターでもして来ればよかった…。
そう思うぐらいの後悔に、胸が痛む。
「 はぁー…。狐塚、車は任せた 」
「 畏まりました 」
薬を貰って嬉しかったのに悲しい…。
去年からついてない事が多すぎて、なんか悪いことでもしてしまっただろうかと悩む。
「 ちょっと待て 」
「 なんですか? 」
まだ何かあるんだろうか…。
そう思って声のした方を向くと、早歩きでこっちに来た男は自転車の右側へと回った。
「 車に乗りたくないなら、押してやるから意地を張るな。頼れる人がいる時は頼るもんだろ 」
「 ……本当に必要ないですよ。だって…家まで自転車で15分ってことは…歩いて、30分近く掛かりますし。そこまで、貴方を歩かせる訳には行きませんので 」
こんなにも引かないなら、遠回しでも歩くのは大変ですよ、意味合いを込めて言えば彼は眉を寄せ、
近くへとやって来た黒塗りの高級車が運転席側の窓を下げたのに合わせて、口を開く。
「 此の自転車、車に積めるか? 」
「 横向きにしたら入ると思いますよ 」
「 じゃ、突っ込む 」
「 はい 」
「 え、ちょっ…… 」
歩いて帰るという選択肢は消えて、近くの駐車場へと駐車し直した車に、彼等は問答無用で乗せていく。
後ろの座席を半分倒し、自転車を押し込んだ様子に唖然となった。
「 ほら、助手席で良い。乗れ。家まで送ってやる 」
「 ……………ありがとうございます 」
下手したら不審者…いや、犯罪者。
そんな強引さすらあるけど、自転車を奪われたからには、彼等に従うしかない。
助手席へと乗り込み、失礼します。と呟いてシートベルトを着けると、運転席側に座ってる彼は傾げてきた。
「 御自宅はどの辺りですか? 」
「 とりあえず… 」
自転車で小回りをして行く道と、車で大通りから走っていくのでは少し違う。
道なりに言えば、やっぱり車に慣れてないから焦る。
「 すみません、すみません。左でした…。直進じゃない」
「 大丈夫ですよ。後ろにいませんし…このまま左に行きます 」
「( 絶対ダメでしょ… )」
青になった途端に左折した運転に、私のせいで警察に止められたらごめんなさい、と心の中で謝っていた。
ちょっと迷子ったから、結局車でも10分ちょっとは掛かってしまった。
「 此処です。本当にありがとうございました 」
「 いいえ、自転車下ろしますので待っていてください 」
後ろに座ってる彼は、ずっと無言だったけど怒ってるのだろうか?と疑問に思って見れば、軽く窓に頭をつけて仮眠していた。
こんな短時間でも寝ようとする様子は、ちょっとお母さんと被る。
「 お疲れなんですね… 」
「 ん?社長ですか?あぁ、そうですね…。今日は特に処理する案件が多かったので、脳内を休ませているんでしょう 」
「 へぇ…… 」
社長…やっぱり、そういう人なんだろうなって思っていたけど、私には関わりの無い人種だなって改めて思う。
狐塚と言う方から自転車を受け取り、いつもの自転車置き場へと駐めれば、彼は思い出したかのように胸元からあるものを取り出した。
「 忘れていました。私、あの方の秘書をしております。狐塚 拓哉と申します。薬の件で何かお困りの際は、此方にお電話下さい 」
「 あ、はい…! 」
名刺を差し出された事に、受け取り方に戸惑うも両手で渡してきたのを見て、同じ様に両手で受け取り、其の名刺を眺めた。
「 樋熊ホーディングス…」
「 はい。製薬会社です。新作の薬についての意見も聞けるチャンスなので、お伝えときます 」
「 宣伝上手ですね 」
「 ふふ、此れでも秘書なので 」
さすがです、と話して受け取った名刺をパーカーの胸ポケットに突っ込んでいれば、車からあの人が下りてきて、大きく背伸びをするなり周りを見渡した。
「 何処だここ 」
「 西区の端っこ辺りですよ 」
「 ほぅ…?それにしてもぼっろいアパートだな。ここに住んでるのか?一人か? 」
「( 失礼極まりない!! )」
そりゃ築50年ぐらいのボロアパートだけど…
だからって言うこと無いよね!?
ちょっと癇に障って居れば、彼はアパートを眺めた。
「 部屋どこだ? 」
「 教えませんよ…… 」
「 社長。デリカシーが無いですよ。気になるのは分かりますが、控えましょう 」
そうだそうだ!もっと言ってれ!と思っていると、玄関の扉が開き、少し淫らな格好をしたお母さんが現れた。
「 あら、なの。帰ってきたんだぁ…おかえり?其方さんは? 」
「 最悪…… 」
お母さんだけは会わしたくなかった…
それも、こんな…普段の格好で、なんて。
「 BBAの下着姿にゲロ吐きそうだ 」
「 …思っていても言わないことですよ 」
「 大丈夫です…。私も、いつも思ってるので 」
58歳になる女のよれた下着姿なんて、若い彼等が見たら嫌だろうね…。
無理ないと頷いていれば、聞こえてないお母さんは気にせず、寝起きの煙草を吸い始めた。
「 汚い部屋ですけど、上がっていきますか? 」
「 結構です 」
「 是非 」
何を誘っているんだ!!
バカタレ!と心の中で思って全力で拒否したの、頷いた男のせいで、お母さんは愛想笑いを浮かべた。
「 では、どうぞ 」
「 …………… 」
「 邪魔する 」
お帰り下さい。
どうか、何も見ずに帰ってください。
てか、待って!!!部屋干ししてるんだけど!!
「 まっ、待ってください!ちょっと片付けます!! 」
せめて部屋干しの物だけでも片付けようと、
入ろうとした彼等を止めてから、先に入って瞬殺で片付けた。
そう、足首の痛さを忘れるほどに……。
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