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仕事が忙しいだろうに毎日昼や夜に通話して、 其の都度、彼の仕事に関するそれと無い愚痴や話を聞いたり、私自身の身の回りであった話をする。 最初はトークすら即読が多かったけど、 最近の彼はレスポンスが早い。 主に熊のスタンプを使って、私が猫で返せば、 また送ってくれる。 そんな日常が続いて、相変わらずの寝落ち通話はほぼ毎日の様に行われていた。 「 ふぁ……桜、満開だね! 」 「 嗚呼…。アホみたいに他人が多くなければ、良かったのだが 」 満開の桜が、来る人を魅了すれば私達もその流れに乗るように、桜の名所である大きな公園へと遊びに来たんだ。 「 この時期は仕方ない。でも、樋熊さんとこうして桜を見に来れたのは嬉しいですよ 」 主は桜色、内側は真っ黒のフリル日傘を傾けて、笑顔を向ければ、サングラスを掛けていた彼は桜では無く、私を軽く見下げては緩く口角を上げる。 「 この花が、これからも俺の側で満開に咲かせくれたら良いのだがな 」 「 ?桜は、春だけですよ 」 「 そうだな…。日傘を貸せ、今日は暑い 」 持ち手部分以外を引き取られ、彼が日傘を掛ければかなり高い場所から、日陰となった。 そうする事で、桜がよりいっそう見上げれる事に、ちょっとだけ嬉しく思う。 「 昼間の桜を、中々見る事が出来なかったので…こうして見れると嬉しいな… 」 ポツリと独り言の様に話しながら、桜並木の真ん中を歩いていく。 可愛い日傘を持ってる彼は、殆ど私の方に向けてるから肩が出てしまってるけど、気にしないのだろう。 「 あ、あの桜の下がいいんじゃないですか? 」 「 木の下……まぁ好きにするといい 」 桜の下、と言うか木の下が余り嬉しくなさそうだけど、いいんだよ!丁度日陰だから! 日陰でもあったから、そこに持ってきていたピクニックシートを開く。 「 ……テディベア… 」 「 可愛いでしょ〜。小学生のピクニックの時に使ったんだよ。また使えて嬉しい…でも、待って…予想外に小さかった 」 広げたのはいいけど、私が小学生の頃に使ってたやつだから、一人分でも狭いぐらい。 小さい頃は、これにお弁当置いても余裕だったのに…。 ショックと他にシートを持ってきてない事に困惑していれば、彼は日傘を差し出してきた。 「 御前は、偶に少し抜けてるよな。俺が持ってきてるからそれは中央に広げるといい。ちょっと外せ 」 「 え、そうなの?分かった… 」 日傘を受け取り、小さなピクニックシートを簡単に取り外すと、彼は右側に掛けていたカバンを下ろし、ファスナーを開けて折り畳まれた布を取り出すと、大きく振ってその場に広げた。 綺麗な花の刺繍とレースが施された、真っ白なシートは布製だけど厚みがある。 「 おぉ、凄い!おしゃれだね 」 「 そう思うなら、買ってよかった 」 お洒落で可愛くて、その中央に小さなテディベアのシートを置くのは申し訳ないけど、食べ物を落とした際に汚れない為と思うと良いかも知れない。 この布製、洗えるだろうけど… 私のシートに比べたら高価そうだからね。 日傘を折り畳んで横へと置き、早速お弁当を広げて、飲み物担当の彼はペットボトルを置いていく。   木箱のお弁当だから、其れなりに映える…と思う。 「 どうでしょう? 」 「 ……あぁ、凄いな。頑張ったろ? 」 「 張り切りました!朝5時起きで 」 「 言ってくれりゃ手伝うのに… 」 彩り鮮やかなサンドイッチや巻き寿司、そしておかずやら果物。 全て、彼が買ってくれた材料だからこそ、自分で作りたかったんだ。 「 いいですよ。材料費は負担してくれてるから、お弁当ぐらいは作るよ 」 「 そうか…で、取皿と箸は? 」 「 へ?入れて……あ… 」 お弁当とピクニックシートだけ入れて満足してしまった。 普段、他の物はお母さんが準備してくれるから、物事の準備が足りない事に焦って、カバンを探る。 「 机の上には出してはず… 」 「 そうだろうな。弁当について昨夜張り切っていたから、忘れるんじゃないかと思っていた 」 「 まさか…… 」 彼は自らのカバンを探った事に、期待の眼差しを向けると少しドヤ顔を浮かべて、未開封の綺麗なプラスチック製の皿と箸、コップ等も取り出した。 「 勿論、予備として持って来ていたさ 」 「 流石!樋熊さん、準備いいね 」 「 まぁ…狐塚に合った方がいい物を聞いただけなんだがな。俺はこういうのに慣れてないから 」 「 あーなんとなくね 」 お金持ちであり、小さい頃から家政婦さんが身近に居たのなら、ピクニックの基準も分からないのも無理がない。 でも、それでも誰かに聞いたり、調べてから準備するのは嬉しいと思った。 「 御前と一緒に居ると、この歳でも学ぶ事が多いな 」  「 庶民的なデートもいいでしょう? 」 「 それ以外にも色々あるが…まぁな 」 悪くないと口にした彼は、袋を開けて私の方へと差し出してきた、使わないやつは直ぐにカバンへと入れてから、好きなものをお皿に乗せていく。 「 じゃー、いただきます 」 「 いただきます 」 両手を合わせて、昼御飯を始めた。 「 だし巻き、ん…美味いな 」 「 良かった。そう言えば好き嫌いとかある? 」 「 不味いもの以外なら好きだ 」 「 それは随分とアバウトな…。分からなくも無いけど 」 確かに不味いものって、食べただけで嫌いになりそうだから納得出来る。 思った以上に彼は、食への拘りが無い様に思えた。 お皿に乗せたのだって、一通り取ってみては食べてる様子に思える。 「 断面綺麗だな…この、フルーツサンド 」 「 サランラップ巻いたあとに切っただけだよ 」 「 そうか…ん、美味い… 」 「 甘いもの好きだよね。辛いものは?これ、ヤンニョムチキンだよ 」 頷きながらサンドイッチを口に含み、三口位で食べきった彼は、少し漏れたホイップが口元に付いたのを親指で拭くのを見て、まだ食べて無さそうなのをフォークで軽く刺してから差し出せば、少し身を寄せて口へと含んだ。 「 ん……普通だな 」 「 普通なんだ? 」 「 あ、いや…甘いものや辛いものってやつは普通に食える。だが、御前が作る手料理はどれも美味いし好きだってことさ。それに優劣は付けれない 」 手料理を食べさせたのは、此れで2度目だけど…。 きっと彼が普段食べるものよりはかなり劣ってるはずなのに、そう言われた言葉に自然と顔が熱くなる。 「 そう…そうなんだ。へぇーでも、優劣はつけてほしいかな。好きな物は知りたいし 」 「 そんな物を言えば、まだ食ってないものを食えなくなるじゃないか 」 「 それは一理あるかも… 」 好きだと言われたら、多分きっと彼が来る度にそれを作ってしまうだろう。 今は、固定が無いから色んな物を食べさせて、 その反応を見て好き嫌いを探ってる感じだ。 このお弁当だって、色んな物を少しずつ入れてるから、彼がどれを多く取るのか見てたりする。 「 だろ?同じのばっか作るのは、結婚してからでいい 」 「 カレーやチャーハン3日続いても文句言わない? 」 「 言うに決まってんだろ。金があるんだ、外食でもデリバリーでも頼むさ 」 「 あ、それもそうか 」 お金が無いから数日分を一気に作るのであって、材料費を買えるお金があるなら、このお弁当の様に色々作れる。 「 私さ、元々料理を作るのが好きだったから、材料があるのは凄く嬉しい。だからいつか大きなキッチンがある家に暮らしたいと思ってる 」 「 カウンターキッチンか?コンロ3つぐらいあって、グリルやオーブンの機能がいいやつ 」 「 そう!理想!! 」 よく分かってるね!とばかりに彼の告げるキッチン周りを想像すると楽しいけど、ふっと所々に空洞になった弁当箱を見詰めては、肩を落とす。 「 でも…お母さんは、どんなに料理を作っても…。結局、最後は菓子パンを食べるし、もう作らなくていいよって言うんだ…。一人分を作る気にもなれなくて、いつも簡単に食べてたけど…出来るなら毎日作ってあげたい 」 一緒に暮らしてるなら、手料理を食べさせたいと思うのに、お母さんはそれを喜ばない。 私が働いてた時でさえ、遠慮してるのか…それとも素でいらないのか分からないんだ。 「 それは…仕方ないんじゃないか 」 「 そうなの? 」 「 俺は当人でも、オメガでも無いから分からないが…。オメガと言うのは番となったアルファに染まるらしい。だから、あの人の番だった…まぁ夫が、菓子パンばっか好きなやつだったなら、別れた後もそうなるさ 」 顔を上げて問いかけた私に、彼は何処か顔色を暗くして告げた。 別れてしまった後…アルファの存在が無くても覚えていてしまう、過酷なオメガの現状なんだろう。 「 仕方ないのか…お母さんが菓子パン好きなら 」 「 まともなオーブンでも買って、パンでも焼いてやれば喜ぶんじゃないか? 」 「 あ!それいい案だね。ふふ、そうして上げよう 」 菓子パンを食べる事を止めさせるより、食べて貰える物を作った方がきっといい。 そう言ったような彼の言葉に、自分の考え方が変わった。 「 買ってやろうか? 」 「 家に置くところないから遠慮するよ。それに作ろうと思えば家にある小さめのオーブントースターでも作れるからさ 」 「 そうか…なら俺も、そのパンを楽しみにしてる 」 「 食べたいだけでしょう 」 「 そうかもな 」 最初、出会った時は俺様で強引だったけど、こうして話す内に優しい人なんだなって思う。 だから、買う人の身体のことを考えて作れる製薬会社の社長なんて立場が出来るのだろうね。 「 だし巻き玉子残ってる、食べてー 」 「 手が離せないから口に入れてくれ… 」 結構作った弁当だったけど、彼の口に突っ込んだだし巻き玉子が無くなれば、全て綺麗に空となった。 シートを折り畳んでいた彼の横で、弁当とかを片付けて、周りを見渡す。 「 忘れ物は無さそうだな 」 「 うん! 」  日傘を差し直せば、彼が頷いて歩き出す。 コップに桜の花びらが入った瞬間に、木の根にお茶を捨てたのは驚いたけど、食用の花びらでなければ心配だよね。 「 次はどこ行くんですか? 」 「 博物館か、美術館。どっちがいい? 」 「 博物館で! 」 「 だろうな、そういうと思った 」 外で遊んだ後はゆっくり室内で遊べるようなところなのは納得出来た。 修学旅行以来の博物館に、普通に学生のようにテンション上がってたけど、彼は気にせず私の後をついてきては、一緒に眺めていたんだ。
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