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01
小さい頃から、他の子の様に日の下で生活が出来なかった。
陽光に当たるとかぶれる皮膚は、日光アレルギーや紫外線アレルギー、光線過敏症等と呼ばれるもので、
一般的に、日焼け止めクリーム等を塗れば平気だったりするのだが…。
私の場合は、敏感肌でもあり…その日焼け止めクリームを含めた、美容液や化粧水、メイク用品ですら扱えなかった。
安価な物はアレルギー物質が入り、高価な物は様々なものが含まれて…肌荒れを引き起こし、
敏感肌用!なんて物も使えない。
唯一、使えるとするなら赤ちゃん用の薬ぐらい。
其れでも、使えるものは限られて来るから学生の頃から、メイクをやってる子達が少し羨ましかった。
綺麗になる事に努力を惜しまない。
そういった子は可愛いし、憧れる。
でも、私には其れが出来る程の環境じゃ無かった。
「 ニキビ出来てる…。昨日食べたチョコかな…。チョコって鉄が含まれてるもんね… 」
金属アレルギーだから、鉄が含まれてるチョコはまず食べたら、次の日に吹出物が出来る。
風呂場で顔を洗い、壁に掛けてある鏡へと視線を向け、顎にあるニキビに指を滑らせては赤ちゃん用の石鹸を使い、泡立ててから顔を洗う。
「 痒っ……これ、も。ダメかも 」
洗い終えた後にぬる湯でしっかりと洗い流したけど、僅かに当たった首筋を掻き片手に持った新しく買った石鹸が入ってた裏のパッケージを見る。
細かく書かれた中で、何が悪いのか自分には分からないけど、
この中の成分が全く含まれてないものですら痒くなったり荒れるのだから、専門の知識を身に着けてないと分かる訳がない。
「 もう少し洗い流そう 」
しっかりと顔を洗い流し、少し肌がつった感触になるも、湯船のフチにかけていた安いタオルを手にし、顔に押し当て拭いていく。
「 残念…新しく買ってみたのに 」
ちょっと落ち込みながら立ち上がり、脱衣場で着る。
ブラウスやバンドTシャツ等着たいけど、首元に当たると肌荒れを引き起こして痒くなるから、
ほぼ年中、ブラ付きのタンクトップ。
下着は面積が広く、柔らかい男性もののボクサーパンツでなければ履けない。
女性もののボクサーパンツはシンプルなものしか無いし、あってもアルファ用に股間の膨らみ部分があるもの。
そんなもの持ち合わせてないから、前開きや形が無いものを選んでる。
タンクトップにボクサーパンツ、一年を通してこの格好で過ごしてる為に、特に気にせず濡れた白髪をドライヤーで乾かす。
部屋の方へと行き、リビング台の上に置いてる黒縁眼鏡を持って、顔に掛けては視界に移る白い点に気になって、近くに置いていた眼鏡拭きを手に拭いていく。
視力が悪いから、どうしても眼鏡が無いとダメだし、コンタクトは目が充血しやすくなるのに、目薬の殆どが使えないから、コンタクトは出来ないんだ。
「 こんなものか… 」
綺麗になった眼鏡を掛けていれば、外に居ただろう母親が裏玄関から部屋に入って来た。
「 お風呂は?湯、入ってるよ 」
「 いい。疲れてるから今日は入らない 」
狭い通路の背後を通り過ぎた瞬間に鼻に付く、
煙草の匂いと独特な体臭に眉間にシワが寄る。
「 そう言って、3日も風呂入ってないでしょう?
今日入ってなかったら4日目になるよ 」
「 疲れてるからほっておいて… 」
「 なにそれ…。だから、柚子に臭いって言われるんだよ 」
私には3歳年下の妹が居る。
柚子は近所に別で家を借りて住んでるけど、
この小さなアパートでは、私と母とでふたり暮らし。
リビング横にある部屋で、常に敷きっぱなしの布団へと入った様子に、小さく息を吐く。
疲れてるのは分かる。
私が働けてない分、お母さんが清掃員として働いて、家のお金は全て負担してくれてる。
だから出来るだけ家事はしたいんだけど、
年配であり、尚且つオメガであるお母さんの給料は少なく、家賃と光熱費を支払ったら殆ど無くなる。
「 風呂入らないなら…湯を入れた意味無いじゃん 」
3日間入らなかったから、今日こそ入るかと思ったけど、そんな様子は無い。
仕方無く風呂場に戻ってから湯を抜いて、軽く洗う。
「( あ、無くなった…。でも、今月はもう買えないし…はぁー、薬買うんじゃ無かった )」
風呂掃除用洗剤が空になった事に気づき、数回目の溜息を吐く。
2ヶ月前に、妹に誘われて出掛けたら、しっかり着込んでたはずなのに、その時は陽射しが強くて防御が出来ていなかった首元が、荒れて皮膚炎を引き起こした。
痒くて掻いてたら、老人性乾皮症になって…。
自業自得なんだけど、それを抑える為にいくつかの飲み薬と非ステロイド剤の塗り薬を買ってたら、
普段は月末までに3000円ぐらい残るお金が、既に月始めの時点で2000円程しか無い。
自己負担額が増えた病院には行けないし、一度アレルギー検査やらパッチテスト等行われると、
薬を貰う以上の金額が積み重なると思って、行くのを控えた。
「( こんな事なら…素直に行けば良かったかもしれないな… )」
いろんな薬を買うより先に、病院に行った方が早く治ってたかも…なんて考えると力が抜ける。
風呂を洗い終え、晩御飯を食べる。
皮膚炎が悪化したことで、失われた亜鉛不足による味覚障害を治す為の亜鉛サプリ、
亜鉛を過剰摂取することで失うのを防ぐ鉄分やカルシウムを補う、ステック状のしっとりクッキー。
野菜不足やビタミンC等を補う為の飲み物をコップ1杯飲めば、晩御飯は終わりだ。
「 まず……… 」
野菜と果物100%なんて書かれてるけど、何処かの段階で水が使われてるのか、苦く不味い飲み物に眉は寄る。
食べ物や飲み物を、美味しいと感じたことが永い事無い。
ずっと亜鉛不足による味覚障害を引き起こしてるから、食事なんてあってもなくても同じ。
それに、偏食気味で菓子パンしか食べない母親に、何を作ろうと食べないのだから、
一人で食べる気にもならなかった。
それでも…何かを口にしなければ、人間は生きてはいけないのだから仕方ないね。
「 お腹空いた……。この時間なら、安売りあるかも 」
飲み物も無くなる頃だから、もう少し何か食べようと思って、500円玉だけが入った財布を持ちパーカーを着てから、マスクを取り付ける。
「 お母さん、ちょっと出てくるね?何かいるものある? 」
「 ……………… 」
「 ……分かった。行ってきます 」
既に寝てる様子に、買う必要は無いと判断してから、
3年前に妹が買ってくれた靴を履き、ボロアパートを出る。
暗く、少し肌寒い夜は小さく身震いをして、
パーカーのファスナーを首元まで上げた。
「 かゆっ……早く、買い物を終えて帰ろう 」
パーカーの裏生地が皮膚に当たる感覚に、痒みを感じる。
何気無く首元を服の上から掻いて、自転車置き場に置いていたマウンテンバイクを使い、乗ってから買い物へと出掛けた。
夜に出るのは好きだ。
太陽を気にしなくていいし、夏は蒸し暑いけどエアコンのない室内より涼しくていい。
この時期は少し肌寒いけど、空気は澄んでるのだから…。
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