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お客様のために正面玄関から一番近くに設置されている扉をノックし、横に開く。私の顔の横幅より少し広めだけ開けて顔を覗かせる。
「失礼します。高坂先生いらっしゃいますか?」
一応、高坂先生の席は入ってすぐに見えるところだけれど、誰に用があるのか分かりやすくするために言っておく。「失礼します」の時点で分かっていた高坂先生は立ち上がってこちらに向かって来てくれて、そのまま廊下で立ち話が始まる。
まずは母のスーパー謝礼タイム。私とは対照的におしゃべり好きで人付き合いが人並みに出来る母と先生の会話はとても弾んでいて、たまにリアクションを求められる時に反応することしか出来ない。
最後の最後だというのに情けない。私は人と話すのが苦手だから子供な同級生には優しくしてもらえない。だから優しく話を聞いてくれたり、気の利いた話題をくれる先生が好きだし、してくれないと嫌な気持ちになる。そう、今は少し嫌な気持ち。
「優花、わざわざありがとう」
先生は大人向けの笑顔をしている。このまま放っておくと職員室に帰ってしまいそう。
「あ、あの! 2人で喋りたいです。……お母さんに聞かれたらちょっと恥ずかしいから」
私は追い込まれると考えるより先に言葉が出たり、体が動いたりする。
ママは気を利かせて先に帰り、私と先生は廊下でふたりきり。そういえば、私は話したいことがあるときは好きな話題を話に行くけど、ないときは黙って側にいて、話しかけてもらうのを待っていた。先生はそういう仕事だからといえばそれまでだけれども、それをしてくれる先生に恵まれなかったから高坂先生が良いのだ。
「優花、高校でも頑張れよ」
「うん」
「持久走とか放課後も走ってて頑張り屋だと思ってたよ。高校に行ってもその良さは無くすなよ」
「はい。先生これまでありがとうございました」
「どういたしまして。他に何か言いたいこととか大丈夫か?」
他に言いたいこと……。あるけれど、言っていいのかな。先生と生徒だし、卒業したって先生には妻子がいる。
世の中には伝えない方が良いこともあるなんて言うけど私の性格的に言わないと後悔しそう。やった後悔よりやらなかった後悔をする人間だもん。
「先生、ちょっと耳貸してください」
先生は何も言わず私の口元に合わせて屈んでくれた。
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