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今はちょっと泣きたい気分。どうしてって?
だって好きな先生が離任するから。
3月31日、私は離任式に行ってきた。3年生だから自由参加なのだけれど、家も近いことだし、好奇心に導かれるまま行ってきた、というのは表向きの理由。本当は高坂先生の今後が気になったから。
高坂先生は2年生、3年生の時の担任。熱血という言葉が少し似合うけれど、脳筋ではない。差別なんてもちろんしないし、陰キャの私に優しくしてくれたし、これまで先生に良い思い出のなかった私がはじめて心を許した先生だ。友達が少ないうえに堅物な性格が災いしてクラスの男子に優しくされたことがない私がはじめて異性として意識した人でもある。
そんな高坂先生が明日から転勤する。転勤先はこの町から車で南に30分走った先にあるそうだ。会いにいきにくい。私の進学先はこの町から北の方向に電車で15分かかる。だから高坂先生の転勤先の中学校出身の友達なんて作れないだろうし、一人でその中学校に突撃する勇気もない。
「どう、ブレザー似合ってますか?」
「高校の勉強難しくて大変です」
そんな他愛のない話がしたかったけれど、どうやら無理そうだ。
せめて、今日声を掛けられたらよかったんだけど……。
そんなこんなで、1時間はベットの上で上の空。辺りの環境の良さもあってずっと静寂。そんな沈黙を仕事に行っている母が突然破った。
『どの先生が離任したの?』
「?」が赤くて太い母特有のメッセージがスマホの上部に表示される。面倒だけれど、答えないと帰ってきたら小言を言われる。
『高坂先生、辻先生、松川先生』
『あとは忘れた』
これだけ送ってまた布団にもぐったその瞬間、再びポロンと通知音が響いた。
『高坂先生、離任したの⁉ お別れのあいさつしなきゃね』
母も高坂先生に好意的だった。面談や行事での対応、それに私の話が影響しているのだろう。
それから少し時間が経って、母が帰宅した。下から母が電話している声がする。話の内容的に今から高坂先生に会いに行くアポを取っているとみた。もちろんその推理は的中、母が「今から学校行くよ~」と呼びかけてくる。
「そうだね、お世話になったからちゃんとお礼言わなきゃだよね」
外面は冷静に取り繕っているが心の中はスキップルンルンかつ緊張状態。だってこれがラストチャンスなんだもん。
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