クラスメイト(男子)をメイドにすることにしました。

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 無茶苦茶。  怖いんですけど。 「思いつきません……」  もとよりドSでもなければ、嗜虐趣味もなく、取り立てて困っていることすらないので根本的に他人を使役する理由がないわたしは、震える声で答えた。 「そう。じゃあ俺が考えてあげようか?」 「えーと、何をするかを? またまたご冗談を」  あまりの迫力におされて、ごまかそうとしたわたしに対し、成瀬は淀みの無い口調で言った。 「この部屋には監視カメラを三台仕掛けている。富樫さんが入ってきてから、俺に無理強いする一部始終があらゆる角度からおさめられている。流出したら大変だな。脅迫は犯罪だからね」 「わたし、脅迫しましたか!?」  というか流出したら困るのは着替えやらメイド服姿やらが映ってしまった成瀬もでは? とは思ったものの「音声なんかどうにでもなる」という一言に即座に却下されてしまった。  なるの? 本当に? 「どうにでもなるということは、もしかしてわたしが脅迫したていにして捏造編集するの? そこまで編集技術があるなら、成瀬の着替えはモザイクするんだよね?」 「いや、絶対に見せる」 「そこは見せるの!?」  その力強い決意はいったい!?  ひるんだわたしをよそに、成瀬は淡々とわたしを追い詰めてきた。 「俺の弱みを見つけた富樫さんが、それをたてに『自分の下僕(げぼく)になれ』と脅迫して、俺を脱がせてやりたい放題した映像……。まさか、富樫さんにこんなド変態趣味があったとはね。もしこれが世の中に出回ったら……」 「出回ったら……?」  成瀬はわたしの手を掴む手を左に変えると、空いた右手で器用に自分の首にまわされた首輪を外した。  首輪慣れした仕草だな、とぼんやり思った。首輪慣れ? 「美少女に使役されたい、ご主人様が欲しいド変態男子が、富樫さんのもとにいっせいに押し寄せるんだろうな。怖いね、逃げられない富樫さん、かわいそうだね」 「ひっ……それは無理っ」  想像して、わたしは血の気が引いていくのを感じた。 「今でさえ、目の前のメイドさんの使い道が思いつかないのに、たくさんのメイドさんなんか扱いかねるんですが! 何を頼めばいいのか、全然思いつかない!」  焦ったわたしに対し、成瀬は「そのとおりだ」と大変物わかりの良い口調で答えた。 「メイドは俺一人でいい。富樫さん、いま困ってる? 助けて欲しそうな顔をしているけど。助けてあげようか? 俺は富樫さんのメイドだからね」  何やら、妙に危ういまなざしと甘い声で囁かれたが、わたしは気を強く持って答えた。 「カメラ映像を流出させなければ良いよね?」  にこり。  笑った成瀬はわたしの一言を黙殺すると、突然立ち上がり、わたしの首に首輪をまわしてきた。  何をと思う間もなく、きゅっと軽く締め上げられる。  苦しくはないが、指をねじこんで外すこともできない絶妙な加減だった。  やはり。  首輪慣れしている。 「俺に何をさせるか思いつかないみたいだから、代わりに俺が富樫さんのご主人様になってあげるね」 「何を言っているのかよくわかりませんが」 「すぐにわかるよ。富樫さん、メイド服似合うだろうなぁ……」  なぜか妙にうっとりと言われて、わたしは硬直したまま成瀬を見上げてしまった。 「変なこと考えていない?」 「全然。御主人様とメイドさんの関係で正当なことしか考えていない」  全体的に怪しすぎる返答だった。  わたしは首にはめられてしまった首輪を指でなぞりつつ、今一度確認をした。 「正当なことってなに? お、お仕置きとか?」 「なにそれ楽しすぎる。絶対しようね」  確実にやぶへびをした。  ひるんだわたしの顔をにこにこと見つめ、成瀬は楽しげに続けた。 「うまくいきすぎてびっくりなんだけど。こうでもしないと、富樫さん俺の気持ちに全然気付いてくれなさそうだったからさ。俺ももうギリギリっていうか」 「ギリギリ?」 「富樫さんに告白しそうな男を全員追い払うの、結構大変だったんだ。ま、そのへんの大変さなんかどうでもいいんだけど、肝心の本人に俺自身近づけていないので、埒があかないっていうか。これはもう、どんな手段でも使って俺のものにするしかないかなって思って。ラブレターを書いてしまった」  にこにこ笑いながら、全体的に変なことを言いつつ、成瀬はわたしの首の首輪に指先で触れた。  ぞくりと背筋に悪寒が走る。  何か、絶対に、とても悪いことを考えている顔をしていた。  その思いから、わたしは確認のために尋ねる。 「あの他言無用の手紙、まさか差出人は本人……」 「富樫さん、さすがに勘が良いけどここまで一直線だったのは、予想以上だよ。本当に嬉しい」  恐る恐る見上げたわたしに、メイド服姿の成瀬は満面の笑みを浮かべて言った。 「悪いようにはしないから、これからよろしくね」 
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