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出会い
布団を敷き詰め、衝立を建立てただけの部屋に、男たちがいた。
暁たち部屋を持たない女郎は、今夜もここで男たちの相手をする。
「しっかりと稼いできな」
遣手に押し出されるように、暁たちは大部屋に入っていく。
こんなところで稼げるわけないのに。
「いたっ!」
憂鬱な溜息を吐き出したのを見られたのか、遣手が鬼の形相で暁を睨みつけて、腕をつねった。
「ぶすたれてないで、しっかりしな。あんたの器量じゃ、身体を使うしか稼げないんだから」
自分の顔だって人のこと言えないだろう。
「なんだい。その不服そうな顔は?」
化粧を施していても、不満だらけの顔は隠せないらしい。
もう一度、遣手に腕を強く抓られて、暁は顔を歪めた。
「とっととお行き」
フンと鼻を鳴らした遣手が、暁の背中を押した。
よろめくように男の前に座った。
「今夜は、積極的だねえ」
ニタァと気持ち悪い笑顔を向けた客は、暁の着物の裾を開いて、中を覗き込んでいる。
毛だらけの指で脛を摩り上げ、太腿まで上がってきた。
ペチリとその手を叩いて、「まだ早い時間だよ。よしておくれ」と牽制した。
「いいじゃないか。どうせするんだから、後でも今でも変わらないだろ」
「こんな早い時分から、独り占めできる訳ないだろ」
ああ、気持ち悪い。
吐き気さえしてくる。
そんなことを顔に出したことがバレたら、それこそ厄介だと、暁は唇の端を上げた。
「まずは、飲みなよ。楽しいことはそれからだよ」
「そうかい。じゃあ、注いでもらおうか」
化粧を施した顔は便利だ。
心の中に渦巻く黒い感情を隠してくれる。
そして、衝立も便利だった。
「呼ばれたから、待ってておくれよ」
水揚げされたばかりの頃は、うまくあしらうことができなかった。
気持ち悪いと思いながら、男たちの手が体を這い回るのを我慢していた。
慣れてきた今は、うまくあしらうことができるようになった。
こんなことばかりうまくなっても、仕方ないのにね。
心の中で悪態をついて、次の客に移動した。
うまくあしらうことができないのは、人間の皮を被った獣だけだ。
次の客も、人間であってほしいと、強く念じていた。
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