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「あんまり器量が良くないねえ。でも、身体の発育は悪くない。うちで預かるよ」
ここに連れて来られたときに、言われた。
食べるものも少なくて、手足はガリガリに痩せていたけれど、女の印である胸は膨らみ始めていた。
それで中里やの主人が雇うことを決めた。
暁という名前を与えて、十八になったら、客を取らせた。
妓楼は、大見世、中見世、小見世、切見世があり、大見世が一番格上だ。
切見世に行かないだけましだと、禿になった暁に教えてくれた姐さんは、もうこの世にはいない。
自分の置かれた所をまだましだと思わなければ、ここにはいられなかった。
大見世の太夫たちを見るたびに、器量の悪いあたしとは違うと、暁は自分を卑下してしまう。
あの姐さんも、一緒だったはずだ。
だから、下には下がいると、自分に言い聞かせて、暁にも言い聞かせていたのだ。
どうせなら、大見世で働きたかった。
煤けた臭いの充満する大部屋で客を取るのではなく、部屋持ちの姐さんの世話を受けながら客の相手をしたかった。
花魁道中を出せるほどの大見世だったら、水揚げのときに、良い旦那さんを充てがってくれたかもしれないのに。
もっと器量が良かったら、変わったのかも。
違う。
器量は関係ないんだ。
あたしは、生まれた家が悪かったんだ。
だから、お父とお母の元に生まれたことがいけなかったんだ。
この世に生まれたこと。
それ自体、間違っていた。
あの家に生まれていなかったら、今頃、幸せそうに笑いながら道を歩いていたかもしれない。
そんなもしもの考えに、暁は嘲笑を浮かべた。
考えても仕方ない。
もしもは、存在しないのだから。
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