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轍の青女(2)
死んでしまった彼は……わたしにとっては「三人目の彼」だった。
一人目の彼氏は中学生の終わりにできた。
……だけど、その彼は別の高校へ進んだので、これといって一人目の彼とは何も進展しないままに終わってしまった。
厳密にいうと、彼氏だったのかどうか難しいところだけど、特に困りはしなかった。
二人目の彼氏は高校生の夏休みにできた。
「あのさ、ちょっと用があるんだけど……」と彼から呼び出され、愛の告白をされたわたしは、入学してから気になっていた彼の想いを受け入れた。
わたしは赤面した彼が愛しく感じて、彼の手を握った。
「嬉しい……わたし……これを待ってたんだよ……」と。
わたしは正直だった。
彼とは学校の休み時間によくよく……冷静になってみると、どうでもいいことを大げさに楽しくおしゃべりした。
わたしは通学も彼と一緒にした。
休日にはデートもした。
山よりも近かった海に行ったり、買い物に行ったり、映画を観に行ったり、いつも心地よい二人っきりの時間を過ごした。
彼といて、気まずくなったことは一度もなかったし、言い争ったりもしなかった。
何も話さなくても彼の心が、気持ちが、思いが、わたしにはなんとなく理解できた。
これは不思議なことに彼もそうだった。
男女の性別の違いなど、どれほどのこともない。
通じあえるものは、通じあえる。
そんな彼だったので、わたしは彼の家へ行ったし、わたしの家にも彼を呼んだ。
彼のお父さん・お母さんにわたしは会ったし、家へ連れてきた彼を紹介すると、わたしの両親は彼を歓待してくれた。
初めてのキスも、この彼だった。
彼もわたしも、ファーストキスだった。
……ふ……ふふふっ……自分で思い返しているのに、うふふふ、苦笑してしまう。
キス以上のこと……を初めて彼としたこと、これをわたしは何も後悔してはいない……それはその通りなのだが、彼とわたしは進むべき道が異なっていた。
あの時分においては、いかんともしがたかった。
彼は一人前の調理師になろうしていた。
それが彼の夢、将来の目標となっていた。
……いつかは料理店でも開きたかったのかもしれない。
一方、わたしは国家試験を受けようと考えていた。
わたしは学校の近くに建っている古びた市役所が気にかかっていた。
バブル期に重宝された建築士の父と、自他共に許す天才的な写真家の母から、「安定している」と、勧められたわけではなかったが、わたしは公務員になるにはどうすると良いのか、を考えては調べていたのであった。
これを目指そうとした者の目には、専門学校や大学への進学など、それほど魅力的で重視するべきものには映らない。
……倍率こそ高かったけれども、わたしは試験に一発合格した。
これは快挙であった、といいたいところであるものの……我が家、わたしの親族は何らかの試験を受けたら、一回で合格するとの資性を有していた。
……このことをわたしは試験に合格後、父と母から知らされた。
父もそうやって、建築士になったのだ。
わたしと共に試験を受けた友達は不合格になり、彼女は歯科衛生士となった。
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