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轍の青女(3)
彼氏とのことに焦点を絞ると……わたしと彼には、隠し事なんてなかった。
あの当時、スマホはなかったが、ケータイはあった。
だが、わたしと彼はケータイを通じてのやり取りに依存してはいなかった。
ここは、周囲のカップルと異なっていた部分だったろう。
相手を信じていた、というよりは「相手の想いがわかった」のであった。
彼はわたしへ無理強いしなかった。
わたしを困らせたり、怒らせたり、苦しめたりなどしない。
彼はわたし以外の女子と親しくしたりはせず、浮気なんてする人間ではなかった。
「どっちかっていうとさ……集団行動が嫌いで、オレって人間嫌いなんだと思うんだよなぁ。……ゆっこは例外だよ」と、彼は飼っていた犬をなでながら述べていた。
……なるほど。
そんな人間は浮ついた行動をしない。
人間を嫌う者が、必要以上に男を、女を求めるだろうか。
彼にはすまないが……わたしは彼に女にしてもらってから、別の相手と関係を持ったら、自分はどう変化するのだろう、と考えてしまう人間だった。
彼を裏切る気は毛頭なかったけれど、わたしはよくよく想像していた。
彼とは別の男性と寝たら、わたしはどんなわたしになるのだろう、と。
このように、わたしは「人間が好きな人間」なのだった。
お互いに肉体的にも精神的にも初めての恋愛体験だった。
当時は思わなかったが……彼の身になってみると、わたしの存在が彼を男にした、ともいえる。
男には女が必要で、女には男が必要。
これは真理であって、互いは補い合う関係にある。
……今になって振り返ると、付き合っている際、遊んでいるとき、二人っきりでいるときは、わたしの方から彼を誘っていた。
わたしからくっついていき、彼の頬にキスしては、彼の手を取り、わたしの身体へ触れさせる……。
誰かに触ってもらう気持ちよさを知ったわたしは、何も深いことを考慮してはいなかった。
何でも好奇心旺盛に体験してみよう、との活発なわたしに対し、彼の方が落ち着いてくれていたところがあった。
「……ん、ぅんん……ゆ、ゆっこ……ここ、で……は、マズイよぅ……」と、彼。
「え〜〜〜〜っ??」と、わたし。
この彼との関係は彼が上京するとなったとき、自然に解消された。
ケータイがあるのだから、付き合っている二人のつながりを保つとよい……というのはわたしと彼で事前に話し合って、やめた。
お互いを束縛しあわない方がいい……これが初めて、男女の恋愛というものを経験しあい、何よりも理解し合えた者同士の出した共通見解だった。
あなたが大事だ、ここで別れよう、別の相手と出会い仲良くなり、付き合ったっていい、それはそれでいいじゃないか、この段階で別れるといい思い出になるんじゃないのか、と。
……仲違いして、ケンカ別れしたのではない、ということである。
好きは好きだが、その相手と一緒にいられなくなることもある……このことがわたしにも彼にもわかり、同時に学んだことでもあった。
若くても、大好きな人とわかりあえると、誰でも精神が成熟すると考えたい。
月並みな表現になってしまうが、大人になるのだと考えたい。
彼は専門学校に通うため、生まれ育った地から出発していった。
駅で彼に手を振ったのを思い出す。
……わたしと彼は成人式を含め、それから二度と顔を合わせなかった。
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