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轍の青女(4)
公務員になってから、数年後にわたしには別の彼氏ができた。
何かの寄り合いで出会った彼はわたしと肌が合った。
「……ねぇ……かつひとさん、あのぅ……わたし、好きになっちゃったようなんです。で……気になって仕方ないんですよぅ……かつひとのこと。……よろしかったら、付き合いません? わたしたち……?」と、わたしの方から彼へ告白した。
「……ぇっ!? ……あ、そう……なの? ん、んんーー。……いいよ。今は……彼女って、いないし……」と、彼。
「やった〜〜〜よろしくお願いします〜〜かつひとさ〜〜ん!」と、わたし。
一度、男を知ってしまったわたしは心身がさみしかったのである。
追いかけられるかのように、一人ではたどり着けない快感も求めていた。
訪れる身体の周期は、それへ拍車を加えた。
わたしと彼は付き合い出した。
……この彼もそうだが、わたしは彼氏……というよりも、男性からひどい暴力を振るわれたことがない。
「お前は俺のものだ!」と、しつこく付きまとわれたこともない。
歯科衛生士になった友達は親と争って実家から飛び出したが、身を寄せた先の恋人から暴行を加えられ続け、精神と肉体に変調をきたしてしまい、見るも無残な状態となった。
別の友達から話を聞いたわたしが本人に会ってみると、全身に痛々しい痣ができた友人はげっそりと痩せ、情緒不安定な上に言動が不一致になっており、娘を許してはいない親からは厄介者扱いされ、付き添ってもらって精神科へ通院していた。
本人を前にしたら一目瞭然であるが、歯科への勤務継続が可能とは言い難かった。
三人目の彼との付き合いは続き、わたしは彼と数え切れぬほど愛し合い、身体の奥、背骨から全身の隅々までを駆け抜け、じわじわと広がる微かな苦しみを内包する快感を十二分に楽しみ、じわっとにじみ出る汗と共にこれを手中へ収めた。
刺激を受けて快感が高まり、ついには絶頂と一つになってガクガクと震えに襲われるのは、恐れと嬉しさが絶妙に混ざっていて、このために生きている気がした。
……そこがいい、気持ちいいのだ、と口では簡単にいっても、肉体それぞれの箇所への刺激によって得れる快感の種類は異なっており、求めては望む性的絶頂・解放感自体、深い波と浅い波により、織り成されている。
また、男性の悦ばせ方もわたしは体得した。
かつひとさんの恋人となり、彼と交わるわたしの日々は充実していた。
だがしかし……肝心のかつひとさんは事故死してしまった。
あまりに予期しないことであって、わたしは何がなんなのか、自分でも自分がわからなくなった。
自分がわからないとは、世界がわからないのに、あい同じい。
「恋人が死んでしまった」と、誰に打ち明かすとよいのかも、わたしには皆目見当がつかなかった。
……当時、わたしと彼が交際している、男女の仲となっているのを知っていたのは、当事者であるわたしたちの他にいなかったのではないのか。
両親にもわたしはかつひとさんを会わせなかったし、彼は集合住宅で一人暮らしをしていた。
そこへわたしはよく行っては泊まり、とろとろになるまで、愛し合っていた。
そのとき、わたしの両親は「女友達の家に行って、酒でも飲んで眠ってるんだろう」と考えていたようだった。
わたしにはたくさんの女友達がいたのだから。
父や母から、「昨日はどうして帰ってこなかったのか?」などと問い詰められたりはしなかった。
我が子を拘束しない、これがわたしの両親の特徴といえた。
遠くの現場に行っている父はどんなに夜遅くなっても自宅へ帰ってきたが、母は生来の芸術家気質であって、結婚して子供を生んでいたにしても束縛を望まず、カメラを片手にふらりと出ていってしまう人間だった。
そう……わたしの母は奔放であった。
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