春眠暁を覚えず

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春眠暁を覚えず

夫の転勤で緑生い茂るこの桜ヶ丘地区に引越してきて2ヶ月。 明美は毎日アパートの玄関先で虫にお出迎えされていた。 桜の咲く今の季節は冬眠明けの虫がたくさん起きてくる。 害虫対策は色々したがいまだに何事もなかったように虫がわく。 でかめの虫がでる。 こちらに向かって飛んでくる。 夜は部屋の真上の外灯にむらがるから戸を開けられない、中に入れない。 もちろんベランダにも出る。 春が好きだった明美も田舎の虫のおかげですっかり春がきらいになった。 これはいよいよ自分の今までしてきた小さい悪行が家や周りにやたら虫がでるという呪いの形で降りかかるということなのだなと思いさえしていた。 たまに気が触れたように害虫スプレーをやたらめったら噴射している明美を怖がっているのか、ご近所さんはよそよそしく会話はなかった。 そして高齢者が多い田舎のアパートは静かだ。 真上の住人を除けば。 引越してきてすぐにそれに気づく。 朝6時にその日最初の「ギッギーギー」である。 人によってはガタガタガタと聞こえるやもしれない。 日曜は朝6時のギーに始まり定期演奏を経てだいたい夜は23時までギーギーギギギー!と、それは続く。 イスをひいているのか机をひいているのかとにかくうるさい。 うるさいといえば、とにかく夫ゆうじの寝っ屁がすごかった。 プゥーッ ブフォゥ バフッバフーンッ! 毎晩尻からなにか出てきそうな音でまぁ寝られない。 一応新婚なので寝室はとりあえずまだ分けてはいないがそれも時間の問題である。 顔も知らない真上の住人の騒音と、旦那の寝っ屁のせいで明美は睡眠不足が続いていたある夜のこと・・・
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