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「お前さんの得意な妖術で満開にしてくれや。夜桜を見ながらの酒盛りは最高の花見だろう」
「……ただの幻術ですよ。幻想。幻。幻覚。幻影。虚像」
「それでも構わん」
私はまた小さく息を吐き、瞬く間に庭園に満開の桜を咲かせた。
この庭園に桜の木が植えてさえあれば、今頃本物の桜が咲いていただろう。
残念ながら、散った後の虫がいやだと言うなんとも現実的な理由で、うちの庭にあるのは松の木だけだ。
「圧巻だなぁ。やっぱり日本の春はこうでなくちゃあな」
天狗は満足そうに笑って、気分良さそうに酒を呷った。
月明りに照らされる満開の桜を見ながら、私も手に持っていた盃を傾けた。
「おぉ! 庭に満開の桜じゃ!」
「夜桜とは風情がありますね」
「子息殿の妖術かな? 見事だ」
「どうじゃ? これを機に貴殿の庭にも桜の木を植えると言うのは」
「それはそれ、これはこれ。そんなに言うなら、お前のところで植えればよかろう。次の宴会はお前の家だな」
「……手入れが大変そうじゃなぁ」
遠くの廊下で賑やかな声がした。
どうやら宴会をしていた酔っぱらい連中が廊下に出て来たらしい。
向こうは向こうで私の幻術を肴に酒盛りを続けるのだろう。
「向こうは随分と賑やかだな」
「貴殿もあちらへ行かれては?」
「賑やかなのもいいが、俺はこういう静かな場所での花見酒も好きだからいいんだ」
遠回しに一人で飲みたいと言ったつもりだったのだが……。
伝わっていて無視されているのか、酔っぱらいには伝わらなかったのか。
相手が相手だ。前者だろう。
なぜだか彼は昔から、私が一人でいると構ってくる。
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