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「お前さん、俺の話聞いてるか?」
「何の話ですか?」
「……あれか? 反抗期ってやつか? だからそんなに冷たくなったのか?」
「成長の過程です」
べつに反抗期と言う訳でもないが、適当に答えて置く。
酔っぱらいの相手を真面目にするだけ時間の無駄だ。
それに、頭がゆらゆらと揺れているあたり、もう眠いのだろう。自分でも何を話しているのかあまり分かっていないと思う。
ウザ絡みをされても困るし、私は適当に相槌を打って彼の話を聞き流した。
自分で出した虚像を肴に酒を飲んでいると、いつの間にか天狗が静かになっていた。
一升瓶を抱えて静かに寝息を立てている。
遠くでどんちゃん騒ぎが聞こえる以外、静かな夜だった。
たまには花見をしながら酒を飲むのもいいものだな、なんてぼんやりと考える。
風が吹くのに合わせて花びらを散らしてみる。
流れるように落ちていく花びらが、庭園を桜の海に沈めていく。
花弁の一片が、私の足の上にそっと乗った。
拾えば触れられる。
けれど私が妖術を解けば儚く、いとも簡単に消えていくのだろう。
私は庭園に視線を戻す。
遠くの賑やかな声は、まだ幻の桜を褒め称えている。
あぁ、完全に妖術を解くタイミングを逃してしまった。
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