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今日は随分と月が綺麗だ。
「お前さんはまたこんなところで一人……」
縁側で酒盛りをしていると、頭上から呆れた声が降ってきた。
一升瓶を握って隣に腰を下ろした天狗の顔が赤いのは、おそらく酒の飲み過ぎだろう。
今日は父が飲み友達を集めて宴会を開いている。最初こそ私も席にいるよう言われていたが、酔っぱらいどもが私を忘れた頃に部屋を抜け出して来た。
「……それ、何本目ですか」
「これか? これは……えーっと……」
「また怒られますよ、奥さんに」
私の知ったことではありませんが、と付け足せば、天狗はバツの悪そうな顔をした。
「宴会が楽しくてつい……。嫁さんには黙っててくれ、な?」
「会わない限りは何も言いません」
「会っても何も言わないでくれよ。俺と九尾の仲だろ?」
どんな仲ですか、とは言わないでおく。そもそも、彼が指す九尾とは私ではなく父のほうだろうに。
私は小さく息を吐いただけで、それ以上何かを言うこともなく庭に視線を戻した。
満月の明かりが庭に降り注ぎ、随分と幻想的だ。
ここに桜でもあれば、更に美しいだろうな。
「ここに桜でもあればいい肴になるんだけどなぁ」
同じ考えを持っていたことに少しばかり嫌気がさす。
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