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「お願いします。私を弟子入りさせて下さい。私もあなたのような魅力的な魔女になりたいんです。どうか、どうか・・」
仙花の言葉を遮って魔女は言った。
「いいわよ。今は手下を一人でも多く増やしたいから、私にとっても嬉しい申し出だわ」
仙花は目を輝かせて美しい魔女の姿に見惚れながら
「ありがとうございます。よろしくお願い致します」
と、魔女に向かい丁寧に頭を下げた。
「あなた、私の美貌に憧れているようだけど。言っておくけど、あなたが美しい魔女になれるとは限らないわよ。あなたに何を混ぜるかによっては、とんでもない化け物になる可能性もあるし。あははは・・・」
「混ぜるんですって?! あ、あのゴリオとペンギンを混ぜてゴリギンになったみたいに?」
「あら。さすが理解してるじゃない。あなた、上手くやれば上級の魔女になれるわ。ただ、それには、もう一人、あなたと混ざって美しい魔女になりたいと願う若く美しい女の子が必要。魔女になりたいと決心した可愛い子が必要なのよ。ほほほほっ」
「ピッタリな女の子がいます。私といっしょにここへ来た、ゆずちゃんなら、きっと魔女になるために私と混ざってくれるわ」
仙花は、妖しく色っぽく魅惑的な魔女の姿をまじまじと見つめながら考えた。
『あの可愛い容姿の整った、ゆずちゃんと混ざり合えば・・・きっと世にも美しい魔女になれるに違いない』
仙花の心には、もう魔女になったかの如く凄まじい強烈な欲望が湧き上がり、一刻も早く、ゆずちゃんを呼び寄せたかった。
一方、猫耳人面インコに見張らせておいた、ゆずだが・・・ここへ来て、魔女になりたい気持ちより、この家のあまりの薄気味悪さにたじろぎ一刻も早くここを出たい気持ちになっていた。
『あにゃた魔女になりたいにゃりん?』
猫耳人面インコが、ゆずに話しかけた。
ゆずは怯えて声も出せず、ただ震えている。
『私の名は猫山ことり。猫と小鳥と3歳の女の子からできてるんだにゃあ。キャハハハッ。あにゃたもすぐ、魔女軍団の仲間にしてもらえるにゃりん。さあ、行きましょうにゃ〜。お友だちは既に魔女佐和子様のところで、あにゃたが来るのを首を長くして待っているにゃりん』
猫山ことりの言葉に、ゆずは少し不満を感じた。なぜ仙花ちゃんは、私を置き去りにして先に魔女のところへ行ったのか。魔女になりたいと願ったゆずの夢を、いつの間にか仙花ちゃんに横取りされたみたいで悔しくなって来た。
「わかったわ。私を魔女のところへ案内してちょうだい。猫山ことりちゃん」
意を決したゆずは、猫山ことりが奇しく揺らめくように、ふらふら飛ぶ後を追って、奇怪な植物がうごめくジャングルの奥へ奥へと進んで行った。
しばらく進むと、鬱蒼と生い茂る不気味な植物群の隙間から、赤々と燃え盛る炎が見える。
炎の近くまで辿り着くと、ゆずはハッと息を飲んだ。
鮮やかな紫色のローブを身に纏った魔女が、赤々と燃える火の上に乗せられた大鍋をグルグルぐるぐる一心不乱に掻き混ぜている。
大鍋の中ではドロドロした緑色の液体がグツグツと煮えたぎっている。
魔女は大鍋を掻き混ぜる手を休めず、ゆずの方を見て、こう言った。
「ゆず。よくここまで来たわね。見上げた根性だわ。そなたの願いは、永遠の美貌と底知れぬ魔力を持つ私のような魔女になることだろう? 今すぐ、その願い、叶えてやろう。おっほほほほほ。あははははははは・・」
「仙花ちゃんは? 仙花ちゃんはどこ?」
ゆずは辺りを見回すが、そこには時折り何か呪文を唱えながら大鍋を掻き混ぜている魔女しかいない。
「ま、まさか! 仙花ちゃん、その鍋の中で煮込まれてるの?」
ゆずは恐怖に震え上がった。
「よくわかったねぇ〜。可愛いだけじゃなく、勘が鋭く飲み込みが早い。いい素材だよ。さぁ、おまえも魔女になりたいなら、この鍋の中に飛び込みなさい。きっと上等の美しい魔女が出来上がるわ」
キャーーッ やめてぇ〜
どこから現れたのか巨大なペンギンみたいな化け物が、ゆずの首根っこをヒョイと摘み上げると、煮えたぎる大鍋の中へポイッと放り混んだ。
バシャッ!
煮えたぎる液体が少し飛び散った。
「ギャッ。何てことするのよ。この役立たず!貴重な薬液が減ってしまうではないか!お仕置きだ」
魔女がそう叫ぶと、魔女を取り巻く不気味な植物の枝が、大きな鞭のように
ヒューッ ピシリッ
とゴリギンの頭を強烈な勢いで打ちのめした。
ゴリギンは、あっけなくゴロンと倒されたが、すぐに起き上がり
「ごめんなさい。ごめんなさい」
と涙を滲ませ魔女に謝り続けた。
「ったく。おまえの頭はデカいばかりで中身は綿でも詰まってるのかい。まぁ、まだ生まれたばかりだから今回の件は、特別に許してやろう。ただし。今度、私を怒らせたら、もうおまえは廃棄処分だ。わかったかい」
魔女は鋭い目でゴリギンを睨みつけた。
「廃棄処分って・・どういうことですか?」
ゴリギンは声を震わせて尋ねた。
「廃棄処分の意味もわからないのかい。まったく呆れた阿呆野郎ね。おまえをドロドロに溶かして火に注ぐのさ。この大鍋を煮え立たせるために火に油を注ぐ、その油になるってことよ。ギンギンに脂ぎったおまえにピッタリの再利用さ」
ゴリギンは地面に頭を擦り付けるようにしながら、今までの声とは違う、凛とした声でハキハキとこう言った。
「わかりました。もう絶対に過ちは犯しません。怪力ゴリラ男に任せて油断していた私が悪かったのでございます。これからは、ペンギンの私メが、阿呆なコヤツの意識を尻に敷き、魔女佐和子様のために身を尽くす所存でございます。この度の、特別なご配慮、身に余る光栄でございます」
魔女佐和子はフフンと鼻で笑い、また大鍋を覗きながら熱心にグルグルと掻き混ぜ始めた。
イラスト by タナカネイビー氏
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