令草とその一味

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令草とその一味

 魔女佐和子の行動は、令草とその一味には全てお見通し。  それならば、なぜ魔女の残虐非道な行動を放置しているのか。  その理由は、この先、次第に明らかになるであろう。  そもそも令草は生身の人間ではない。人間の心を鋭く探知し対応する力を持っているが、人間のような血も涙も内臓もない。  ただ頭部に育つ様々な草花だけが生えて伸びて枯れていく。この草花は普通に地球上のどこかに存在する草花でありながら、令草の意思を反映して育つ種類は変化する。  彼が氷の中から姿を現した時、おじいさんとおばあさんの前に魔女が現れて呪いの言葉を告げた。この時、出現した黒猫やパピヨン犬、赤鼻のクマのぬいぐるみも、実は普通の猫や犬やぬいぐるみではないからこそ、自在に言葉を話す。  現在、黒猫とパピヨン犬は、おじいさんとおばあさんの家でペットとして飼われているように見せかけ、実は、おじいさんとおばあさんの平和な暮らしを守っている。  令草が大学に通うため家を離れた時、おばあさんは令草が巣立ってしまった寂しさに元気をなくしていた。  そんなある日、おばあさんが庭の草むしりをしていると、チューリップの葉の下に、まだ目も開かない黒い仔猫が丸くなってブルブル震えていた。  おばあさんは、この仔猫を放っておけず、家に連れ帰り大切に育てた。  仔猫の目が開くと、その表情が凛としていたことから、おばあさんは猫をと呼んで可愛がった。  その1年後、おじいさんが近くの山に春の山菜採りに出かけた時、山蕗の大きな葉の下にうずくまる仔犬を見つけた。 『かわいそうに。生まれたばかりの仔犬を、こんな山奥に捨てるとは』  そう思ったおじいさんは仔犬を抱きかかえて家に連れ帰り、猫のりんちゃんの友だちとして家の中で飼い始めた。  仔犬は夕方になると毎日、狼のように ワオーーーン ウォーーーーーン  と上を向いて遠吠えするクセがあった。おじいさんは、その様子を見て、小さな仔犬が狼のように、たくましく利口に育ってほしいとの願いを込め、狼歩(ろうほ)と名づけた。    狼歩は、おじいさんの期待に応え元気に成長したが、猫のりんちゃんと同じくらいの大きさで、それ以上は大きくならない。  こんなふうに、いとも自然におじいさんとおばあさんの家に住み着いた、猫のりんちゃんと犬の狼歩は、魔女が次々に送り込む様々な妖怪や呪いから、おじいさんとおばあさんを守っていた。  彼らは小さな体であるから、魔女の手下や悍ましい呪いと体力で勝負する訳ではない。    彼らは空気を自在に操ることができる。竜巻を起こすこと、マイナス100°に冷却すること、真空を作ることなど朝飯前。  超音波で生命体の活動や呪いのエネルギーを自在にコントロールすることができるのだ。  おじいさんとおばあさんは、彼らが出す特殊な超音波により、いつも幸福な気持ちに包まれている。  逆もまた可。魔女の手先達が、おじいさんやおばあさんの近くに現れようとすると、なぜか急に全身のエネルギーが抜けて苦しみ悶えるうち目的を見失い、地に伏したまま、その場で木や草花になってしまうのだ。  魔女の恐ろしい呪いも、上昇気流で絡め取り大気圏の外側へ放出して拡散させてしまう。    赤鼻のクマのぬいぐるみサビイは、常に令草のそばに居て、令草を見守り続けていた。  しかしサビイは、時に令草の意思に反して身勝手な行動をとることもある。  魔女に血を吸われそうになっていた、ゆずを助けたのもサビイの勝手な判断である。  魔女の如何なる言動も、令草はまったく問題にしない。 「魔女の自由にさせておけ」 と言う。  しかし、サビイは勝手な判断で、可愛いゆずを救った。魔女の残酷な諸行を、とても見てはいられなかったのだ。  だがサビイの勝手な言動も、令草は問題にしない。そんな些細なことに関心はない。  令草の意思は、地球が未来永劫、平穏無事に太陽の周りを回ることにのみ向けられている。  人間や魔女や妖怪や、はたまた自分の手下さえも、どのように戯れて時を過ごそうと、彼の意思は微動だにしない。  冷たい流氷の中に眠っていた令草と呼ばれる厳正なる意思は、北極の氷より硬く、地上に蠢く生命体が好き勝手に歴史を刻んでいる事に何の関心もない。  彼の使命は、ただ一つ。  地球の未来を守ること。 fa9e2484-0597-489c-9a15-74724a36dad8
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