魔女佐和子を襲う謎の寒気

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魔女佐和子を襲う謎の寒気

「さっ … 寒い! この寒さは … まさか。あの男の仕業じゃないかしら」 3e276df3-c9af-4242-9943-5948f1f8d917  魔女佐和子は呪文を唱えながら、魔女になりたいという仙花とゆずの肝を大鍋でぐるぐる掻き回して煮込みながら、今までに感じたことのない異常な寒さに襲われていた。 「誰かあぁーーーっ! 早く、もっともっと薪を持って来てちょうだい。寒くて、これじゃ魔力を十分に発揮できやしない」 「あんれまぁ〜。佐和子様。佐和子様の周りにだけ雪が降っております。足元には氷のカケラが!頭の上からは鋭いツララが垂れ下がっております。一体全体どうしたというのでございましょう」 「黙らっしゃい!かず。余計なことを言ってないで早く薪を持って来て。途中で火が消えたら、この子達、どうなると思うの? 早く!早く薪を持って来なさーーーいっ!」  いつになく切羽詰まった魔女佐和子の声に、かずは慌てて薪を取りに行った。  すると薪小屋の前をぴょんぴょん飛び回っていた、ぴょんブランの色がみるみる変色し、ついには真っ青になって、バタッと倒れたまま動かなくなった。 「ぴょんちゃん、しっかりして!ぴょんちゃん、どうしちゃったのよぅ・・」  かずさんが駆け寄ろうとした時。 「危ない!近寄ってはいけない。呪いが移る」  そう叫んだのはペンギンの声!ゴリギンの中の利口なペンギンの声だ。  ゴリギンは、自分の腹やお尻に長い嘴をザクザク突き立てながら、もう1人の自分を叱咤激励した。 「私はペンギンだから寒さは平気だけど、もう半分のゴリラ男メが!このぉ、だらしなく震えやがって! ゴリ男。元相撲部主将らしく、これくらいの寒さ、意地で踏ん張りなさい。ええぃ、情け無い。震えるな。私が薪を運ぶから、かずさんは佐和子様に、あたたかいお茶でも淹れて差しあげて」  巨大ゴリギンの極まる自虐格闘に肝を抜かれたかずさんは、おずおずと台所に引き返し、身体が温まると言われる毒マムシの皮と火の鳥のトサカのブレンドティーをグツグツ煮出し始めた。  それらの様子を見ていた魔女佐和子。 「ゴリギン。なかなかやるわね。頼もしい。もっともっと、もっと薪を運んでちょうだい。えっ?!ぴょんブランが凍結した? 大丈夫。凍結してる方がうるさくなくていいわ。自然解凍するまで放っておきなさい。何の問題もないから。おほほほほっ。それより問題なのは、仙花とゆずの肝を煮込んでいる、このスープよ。火力が弱いと中途半端な失敗作になってしまう。それが何を意味するか、わかる?」  ゴリギンの中のペンギンは腕を組んで考えた。  ペンギンが考え込んでいる間に、何を思ったか、ゴリオが急に、こう答えた。 「中途半端な失敗作ってのは、まさか!とんでもないブスになってしまうのですか?」  ペンギンは自分のアホな半身に強烈な衝撃を与えるため、魔女佐和子の足元に積み重なっている氷の粒の上に勢いよく ザザザザーーーーッ っと腹ばいになって滑った。  「ギャァァァ ツッ・・冷てぇ〜」  悲鳴を上げるゴリオ。 「お黙り! 何がブスだ。このブ男」  ペンギンは氷の粒をバクバク頬張り、魔女佐和子の周りに吹きつける雪を払いのけ、垂れ下がっていたツララを頭突きで薙倒してしまった。  その甲斐あって、魔女佐和子が掻き混ぜる大鍋の火の勢いはグングンと勢力を持ち直し始めた。  気を良くした魔女佐和子は、かずさんが用意してくれた毒マムシと火の鳥のブレンドティーをグビグビと飲み干すと、高らかに笑って言った。 「お〜っほほほほほほ。あははははは。素晴らしい仕事ぞよ。ゴリギン。イヤ、ペンギン!見直したぞ。この働きを讃え、おまえには何でも好きな力を与えよう」 「ありがとうございます。佐和子様のお役に立てて嬉しゅうございます。もし、新たな力を与えていただけるなら、この巨体を活かし、必要に応じて100倍にも1,000倍にも自由に身体を大きくする力を与えていただきとうございます」  ペンギンは目を輝かせ、朗々と落ち着いた声で迷いなく、そう言い切った。  魔女佐和子は頼もしい部下を優しく見つめながら目を細め、こんなことを言う。 「良いのぅ〜。その望み叶えて進ぜよう。これから半年の間、この大鍋の火の勢いが決して衰えることのないよう、よく燃える薪を常に準備するのじゃ。良いな。仙花とゆずの合体した究極の魔女が無事誕生した暁には、おまえの望みは叶えられておるじゃろう」   「半年!」  ゴリギン中のゴリオが、そう叫ぶ。  ブスッ  ゴリギン中のペンギンの力技で、お尻の◯に太いツララが深く突き刺さった。  ギャァァーーーッ 「おまえは半年間、黙っとれぃ!」  ゴリギン中の2人の葛藤と闘いは、ますます過酷を極めるのだった。
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