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異変
それから数日、魔女佐和子は夜も寝ず、大好きな若々しい血を吸うことも忘れ大鍋を掻き混ぜ続けた。
「大丈夫かしら。佐和子様」
「心配だけど、とてもお声がけできない凄まじい形相だわ」
弟子たちは遠巻きに魔女佐和子の、いつにない気迫と執念に怯えながら様子を見守っていた。
そんな緊迫した日々が4か月と4日も続いた時、異変は起きた。
魔女佐和子は全精力を使い果たしたのか、ふらりよろめき大鍋の横にバッタリ倒れ込んでしまったのだ。
「キャー! 佐和子様」
「あんれまあ〜 どうしましょ」
「うわっ ヤベーッ」
弟子たちは大急ぎで魔女佐和子の体を寝床へと運び入れた。
薄暗い洞窟の奥にある魔女の寝床は、天井には幾千匹という血吸い蝙蝠がぶら下り、足元は鋭く尖った紫水晶の針の山で覆われている。
痛っ 痛たっ ・・・
ぴょんブランなどは、一飛びした、その場の針に全身を貫かれ甘い栗クリームをダラダラと垂れ流し苦しげに呻いている。
それでも弟子たちは協力し、寝床に横たわらせた佐和子の口元に、数万匹のアブラゼミを3年煮詰めて抽出した気付け薬や、数万匹の毒蜘蛛を干して粉砕した魔力増強薬などを水に溶いて流し入れたりした。
その僅かな隙に煮詰まってしまった大鍋からは、もうもうと怪しげな薄桃色の煙が立ち上り始めた。
弟子たちは皆、遠く離れた魔女の寝床で倒れた佐和子の対応に右往左往していたので、大鍋の異変には気づいていなかった。
「あうぅ・・う・・産まれるぅ・・」
朦朧としている佐和子は突然、苦しげに寝床の上で、のたうち始めた。
「あんれまぁ まさか佐和子様は妊娠しておられたのかしらん」
「そんなぁ!イヤ・・しかし・・」
弟子たちは戸惑い、どうすれば良いのかわからないなりにも、かずさんは、とりあえず産湯を沸かし始めた。
シャララララ〜ン 🎵
どこからともなく空から幸せが舞い降りるような心地よい不思議な音が聞こえた。
「生まれた!」
魔女佐和子は、一瞬目を開け、そう叫んだものの、安堵したのか力尽きたのか、またぐっすりと深い眠りに落ちていった。
ハッと気づいたゴリギンと猫耳インコが大鍋の元に駆け寄ると、何と!
空っぽの大鍋は真っ二つに割れ転がり、薪の火も消えていた。
そこには誰の姿もなかった。
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