30.誕生日の贈り物

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30.誕生日の贈り物

カイが無謀にもバースデーケーキを作ると宣言した。 私の誕生日の料理は、すべて任せてくれとも言っていた。 色んなことを引っくるめて、不穏な予測しか思い浮かばなかったが反対はしなかった。 こうと決めたら人の助言なんか聞かないし、嬉々として準備しているのを見たら、誰にも止められない。 当日、市販のスポンジ台に生クリームを塗って、イチゴを載せたデコレーションケーキが完成した。見栄えも完璧である。 ちょっと想像していたのとはズレていたが手作りには違いない。 そしてメインは海鮮の彩りの豊かなちらし寿司が振舞われた。 「これ、親父の得意料理。誕生日にいつも作ってくれたんだ」 「おれ、イクラより、とびっこが好きなんだ。このつぶつぶがたまんねぇ~」 「エビが茹でたら半分になっちゃって焦った。錦糸卵、失敗しちゃったからいり卵にしちゃった。食べたら同じだからいいよね」 どれも、とても美味しくいただいた。 「すんごく美味しかったから、また作ってね」 褒められて満更でもないような表情で悦に入っていた。 男は単純でわかりやすいのが何よりである。 最近のマイブームは質疑応答である。 就寝前に疑問を解決して明日に持ち越さないようにと、カイが提案した。 私からの質問の方がはるかに多いが、カイはそれなりに誠実に応えてくれる。 「はい、質問があります」 「どうぞ、絶賛受付中です」 「さっき、アレ?って思ったのでお聞きします。この間のは、私がプロポーズしたことになってるのですか」 「そうです、親父も逆プロポーズって言ってました」 「私は宣誓しただけで、カイに言ったんじゃないし、心の声が出ちゃっただけだし」 「同じことです、結果はおんなじです」 「ダメダメ、ここはハッキリしとかないと、ジジババになったら、絶対に揉めるんだから、プロポーズしたのはどっちが先だったとかで」 「こだわり、うぜぇ-] 隣りの部屋に逃げ出したカイに追い打ちをかける。 「女のこだわりスルーすると、あとで後悔するぞ」 しばらくして、戻ってきたカイは小さな青い箱を手にしていた。 この箱には見覚えがある。 私を現実に引き戻し、混乱させた下手人(げしゅにん)である。 「お誕生日おめでとう、これ、母さんの形見の指輪。ゆりっちにとって重たい(かせ)かもしんないけど、俺の愛の重さだと思って受け取ってくれる」 「はめて欲しい」差し出した薬指に、カイの震える手が指輪をはめた。 「結婚してください。まだ一人前じゃないけど、百合のこと大切にします」 「・・・」 「こっちが正式なやつ」 「・・・うん」 「サイズ大丈夫」 「うん、、、うん、はじめての指輪だから良くわかんない、、、」 頬を伝う涙が、ビックリするほど暖かった。 こんな優しい涙もあるんだね。 ベットに入った後も、私の質問は続く。 「カイは質問ないの?私に興味がないとかじゃないよね」 「だって俺はゆりっちのことは何でも知ってるもの。ルールを守らないでゴミ出ししてるヤツラのまで仕分けしてるし、腰が痛い大家さんに代わって、草むしりしてるし、あとカラスともお話が出来る」 「ゲっ、なんで知ってる、地獄耳かよ」 「うん、聞こえた、誰としゃべってんのか気になって見てたら、飛んでいくカラスに手を振っていた、ちょっとビビった」 「今度、紹介するよ」 きょうも平和でおやすみなさい<レベル98>
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