もののあはれ

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 学校には専用の車を使いスロープを通って行く。家から僅か5分、地面が隆起した起伏の激しい岩山の頂上に学校はある。 「おはよう」  教室に入るとすぐ霞が声をかけてきた。 「おはよう」 「なんか元気ないね」 「眠くて」  適当に誤魔化して席に着くと、霞も隣に腰掛ける。  僕達の他に生徒はいない。もう半年以上この状態だ。皐月と元太の席もずっと空のまま。子供達の殆どは親を早くに亡くし、自らの課せられた運命を受け入れられず学ぶ意欲を失っていた。  8時に薫先生が現れHRが始まる。僕達の顔を見ると先生はほっとしたように笑う。生徒がいなければ彼の存在意義はなくなる。  先生の短い話が終わり、HRの後また教室に静けさが戻る。一限は理科の授業のため理科室へ向かう。今取り組んでいるのはオリジナルの肥料の開発だ。桜の剪定、肥料、ハウスの設計と管理など、一年の頃から僕たちは桜に関する授業を延々と続けている。国語、外国語、体育といった授業もあるが教養や体力作りのためで、そう多くない。  これまで何度も倉庫で保存してある人工の肥料を組み合わせ豆桜をプランターで育ててみたが失敗した。今日は開発した肥料をレポートにまとめ発表する日だったが、僕は行き詰まっていて白紙のままだった。薫先生は来週出すように、期限は守るようにと言ったが怒ってはいなかった。
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