憂鬱が融解するばかりの空を見上げて【夜明けが見せた虚空(前)】

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『なぁに?』 『ん〜? なぁに、って、なに?』 『だからっ……なんで手なんかひろげてるのよぉ?』 『愛。オレがおしえてあげるよ、きみに』 『うそ』 『ウソじゃない。ホントのホント』 『うそつき』 『じゃあ、まずは君に名前をあげる』 『なまえ……?』 『名前がせいぞうばんごうなんて、そこに愛がないしょうこだろ? だから、オレが名前をあげる……この世できっと、オレしかよばない。すてきな名をね』  小さくて、弱いばかり。だけども、優しくて穏やかな温もりに私は包まれた。その瞬間に初めてね、心が洗われた気がしたのよぉ。  止まらなくなった涙。背をさする手は、頼りないようでそうじゃなかった。 『──決めた。君の名前はだ』  とっても愛らしい名前だろ?  耳元で落ちた囁きは、まるで天使のそれだったわぁ。  この幸せが当時の私には言語化することが出来なくって、けれど。それでも、ソウちゃんに感謝を伝えたかった。一緒に喜んでもらいたかった。  だからと、男が悦ぶであろう口づけをしようとしたの。   『だめだよ』  すると、透かさず私の頭を抑えて──ソウちゃんは困ったように眉を下げた微笑みを溢したのよ。 『オレたちは、一から愛を知るなかま同士なんだから』  私、一生忘れない。あの時、おでこに降った唇の感触。下心じゃなく、尊さばかりを形どったキス。  あの瞬間、私の身体はソウちゃんでいっぱいに満たされた。どんな男に抱かれるより幸福に包まれていて、充足感で足がふわふわしたわぁ。
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