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『なぁに?』
『ん〜? なぁに、って、なに?』
『だからっ……なんで手なんかひろげてるのよぉ?』
『愛。オレがおしえてあげるよ、きみに』
『うそ』
『ウソじゃない。ホントのホント』
『うそつき』
『じゃあ、まずは君に名前をあげる』
『なまえ……?』
『名前がせいぞうばんごうなんて、そこに愛がないしょうこだろ? だから、オレが名前をあげる……この世できっと、オレしかよばない。すてきな名をね』
小さくて、弱いばかり。だけども、優しくて穏やかな温もりに私は包まれた。その瞬間に初めてね、心が洗われた気がしたのよぉ。
止まらなくなった涙。背をさする手は、頼りないようでそうじゃなかった。
『──決めた。君の名前はミナだ』
とっても愛らしい名前だろ?
耳元で落ちた囁きは、まるで天使のそれだったわぁ。
この幸せが当時の私には言語化することが出来なくって、けれど。それでも、ソウちゃんに感謝を伝えたかった。一緒に喜んでもらいたかった。
だからと、男が悦ぶであろう口づけをしようとしたの。
『だめだよ』
すると、透かさず私の頭を抑えて──ソウちゃんは困ったように眉を下げた微笑みを溢したのよ。
『オレたちは、一から愛を知るなかま同士なんだから』
私、一生忘れない。あの時、おでこに降った唇の感触。下心じゃなく、尊さばかりを形どったキス。
あの瞬間、私の身体はソウちゃんでいっぱいに満たされた。どんな男に抱かれるより幸福に包まれていて、充足感で足がふわふわしたわぁ。
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