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それから、紆余曲折あって私の願いは叶わなかったけれど──
『俺はきっと、君を殺せないだろう。だって、こんなにも愛してしまっているんだッ……』
『それならばいっそのこと、このまま捨ててしまおうか──そう考えたんだ。君には、どんなに酷で惨めな人生が待ち受けていたとしても、生きていて欲しいって……
例えば、ミナがこの先壊れちゃうようなことがあったとしても……君の心には、俺が刻んだ愛──恋を焦がした痕がある。君の中にはいつだって俺がいるから、君は死なない。俺が殺さない限り、君は死ねないんだ』
何の前触れもなく、唐突に訪れた別れの日。私は一生、忘れることはないでしょう。
『この世で一番残酷な願いだ。だけど、ミナならきっと叶えてくれる……そして、今からする約束も果たしてくれるだろうね』
──必ず生きて、いつか俺の孤独に苛まれた悪夢を終わらせに来て……約束だよ。俺、ずっと待ってるから。
蛍が雪のように舞い散る夏の夜。貴方は私をこの闇蛍屋に捨て、
二度と振り返ることなく去って行った。
夢を背負った大きい背中のくせに、あの時ばかりは寂寥感を隠さずに……最初は『何故?』と悲観と悲劇に見舞われ、ソウちゃんを思い出すだけで涙が止まらなかったわ。
喪失感が薄れかけた頃に、あの決死の覚悟、別れこそが私を生かす唯一の方法だとも理解出来てしまったからこそ──未練や執着が捨て切れずに、絶望が槍のように降ったわ。
だって、そうじゃない? 死ぬほど愛してると言うのなら、上手な言葉で誤魔化さないで、がむしゃらになってでも私との約束を守って欲しかった。
殺したくない? 愛してるから、俺なしでも生きて欲しい?
そんなの、耳障りがいいだけの詭弁──模範解答も甚だしい理想論よ。
私は所詮、お人形。貴方が名刀を作り続ける為の道具……人間じゃないの。だからこそ、人間らしい感性を持てたこと自体が奇跡で、恋愛感情に至ってはソウちゃんだけのもの。
殺してほしかった。ソウちゃんに切り刻まれて、『ソウちゃん痛い』って……『それでも生きたい』、『ソウちゃんを愛してるから』って、貴方への愛を魂に刻みつけるように目を閉じたかった。
死にゆくその寸前まで、肉体も精神もソウちゃんに満たされながら逝きたかった。
貴方が立派な刀工職人になるのなら、私は一番の糧になりたかったのよ。全身全霊で貴方の夢を応援したかった。例え、この命を失うことになっても──それが、私の貴方に抱く愛欲。
そこに模範解答と言いたげな生暖かい恋愛感情なんて要らないでしょ?
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