憂鬱が融解するばかりの空を見上げて【追憶の悲鳴】

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「所詮、人の子に妾の本懐は理解出来ぬと言うのかッ……!」  どんなに刹那を重ねても、結局人間には欲望や意思があり、それに勝るものはないのだと教えられて──化物と呼ばれた少女はひとり、涙する。 (これでは、遠い過去をまた繰り返すだけだ……)  孤独な自分を慰めるように、身を竦めて抱いた肩。  生まれたその時、その瞬間から、自分は他の螢火とは違った存在だった。  それが、何故かは分からない。目の前にあるのは、見るも無惨な屍の山。そのどれもが、年端もいかない少年少女達。それを憂うように舞い、息絶えていく蛍達──それは、死ぬに死にきれず未練を彷徨う子供達の魂にも見えた。  こんな所には居たくない。ああはなりたくない。だから蛍火は子供達の幸福な輪廻を願い、この山を穢し、荒らし尽くす人間達を憎んだ。  どんなに鼻を覆い隠しても、吐き気を催すような腐臭が辺りに漂い──その内、野犬などの害獣が増え、死体荒らしや自殺志願者までもが集まるようになった。  そればかりではない。そんな負の一方を辿る環境に乗じて、子を捨てる親が急増した。いつしかこの山は、姥捨山を準えて子墓山と揶揄されるようになった。  こうなった根本の原因はなんだ、と……蛍火は考え、苦悩した。  彼女には死の概念がない代わりに、人魂を食らう術が身についていたから。 (希望とはなんだ……? 家族、母親とは──)  魂を貪る中で、次第に人間が何たるかを理解し始めた少女。その内、それらしい感性が芽生えた。感情が生まれたのだ。だからこその人間に対する失望は、憎悪心を膨張させるばかりだった。
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