憂鬱が融解するばかりの空を見上げて【追憶の悲鳴】

5/6
前へ
/47ページ
次へ
「今になって、忘却に置いていた過去を悲嘆するとは……これが人間で言う走馬灯とやらか? 馬鹿馬鹿しい」  名も知らない少女が与えてくれた、刹那の幸福、温もり──否。 (アイツはのじゃなく、生まれたその日からのだ)  だって少女はこの山で行われていた、とある研究による人体実験の被検体……その失敗作に過ぎなかったのだから。 『神を創造……? 一体、その人間共はどこに向かっておるのだ?』 「むずかしいことは、わたしも何にもわからない……それでもね、だれかのかみさまになれるって、とってもすてきなことだから」  ──わたしも、なれるならなりたかったな……たったひとりでもいい。だれかの、かみさまに。  そうしたら──誰かの救いになれるから。たったひとりにでも、必要としてもらえるから。 「馬鹿なヤツよ。人間は気取られ、堕落の底に落ちた時こそ、ありもしない妄想に縋り、手前勝手な神を創造、盲信したりするがな──」  最後に選択するのは、今在る現実なのだ。幻想なんて、ほんの一時の夢……所詮は泡沫の夢物語に過ぎん。希望を堕落で覆い隠して、絶望を惑わす甘い蜜でしかないんだよ。  まるで想いを吐き捨てるように、蛍火は自嘲を浅息に乗せて立ち上がる。  王理はもういない。自分の生命欲の権化である男は、この幻想と言う名の理想郷を捨てるばかりか、壊滅させると誓って未来に駒を進めてしまったから。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加