憂鬱が融解するばかりの空を見上げて【夜明けが見せた虚空(前)】

1/8
前へ
/47ページ
次へ

憂鬱が融解するばかりの空を見上げて【夜明けが見せた虚空(前)】

   身体はこれ以上ない程に愉悦に善がっているのに。虚無が私を犯していく。 「ミナギちゃんっ、もっとこっち見てっ?」 「んっ……、わかったわぁ」  律動の度、顔に度々吹きかかる雄々しい吐息。それがとても煩わしくて煩わしくて、求めるように男の口を塞ぐ。  必死になぞられる歯列。こんな理性もロマンも溝に捨てた求められ方、勿論私の好みじゃない。  それでも、性行為を愛情と刻みつけて生き長らえてきた肉体は快楽を刻むのだ。  私のぼんやりと沈む心は置き去りにして── 『我慢しなくてもいい。お前はもう独りじゃないんだよ』  狐面越しの優しい微笑み姿ばかりが頭を埋め尽くす。 (ああ、私──もう、ダメなのねぇッ……)  奏ちゃんに会いたい。奏ちゃんにもっと優しくしてもらいたい。ぎゅ〜っと抱かれて、頭をひたすら撫でてもらいたい。  奏ちゃんが来たら、何をお話しましょうか? 彼が疲れてるなら、また膝を貸してあげよう。刺激より、気ままな時間が欲しいと言うのなら。箸にもかからないような雑談でもしてみましょうか。  それでね、互いに気持ちがほぐれてきたのなら。あの大きな胸に飛び込んで、キスをねだってみるの。いっぱいしてって、唇尖らせて甘えてみる。  その後はね、イタズラっぽくからかってやるのよぉ。もっと、アナタで私を満たして……私が私でいられなくなる位──それこそ、どうしようもない甘えん坊になって、貴方が困ったように笑っちゃう位、抱いて抱いてってするのぉ。  ほ〜んと、ダメねぇ……他の男に抱かれてるって言うのに。心は奏ちゃんにばっかりさらわれていく。  好きで好きでたまんないって、でも目の前で必死に腰を振る男は私の求めてる人じゃなくって……それが、とてつもなく虚しいばかりで。
/47ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加