憂鬱が融解するばかりの空を見上げて【追憶の悲鳴】

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憂鬱が融解するばかりの空を見上げて【追憶の悲鳴】

 流れる黒雲に蒼い月。濁り濁った夜空には花弁のように星屑が散り、その遥か下──蛍霊山では、蛍に乗り移った屍人の魂が舞い踊る。 「クソ、煩わしいッ……」  荒れに荒れた息と、道の険しさに苛立ちを隠さない足音。蛍火に群がる螢火達は、まるで母を求める子供達のように少女の周りを浮遊していた。 「散れ! 今はお前達に構いとうないのだッ!!」  そんな彼らを壊れた神杖で薙ぎ払い、その場でへたれ込む。一年ぶりの外だと言うのに、そこにいつも見る煌びやかな光景は映らない。  辺りをぐるりと見回してみても、螢火に木、木、木……と、殺風景な風景が少女に無情を焚きつける。 「おぅり……」  神だ、母だと、どんなに気丈に振る舞おうが、中身は至って少女のそれと変わらない。等身大の自分でいることを許されない蛍火にとって、王理やユキは正に家族であり、この世に落とされてから唯一の救世主だった。 「ふっ、なんと惨めで哀れなことよのッ……」  じんわりと濁る涙に気持ちが追いつかず、見上げた夜空には星が瞬いていた。そこから降るような感傷、蛍火は歯を食いしばり耐える。
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