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「姉ちゃん熱でもあるの、ゲッ、何この玉ねぎの山?」
玉ねぎはもらった話をした。
「なんか入ってる、名刺?英語か?違うなー?みきお?かみさき?」
その名刺をのぞいた。
「お父さんのに似てない?」
会社のマーク、それと色。
「アー部署によってデザインが違うらしいけど」
「オー、マジか、海外支局とか!すげー!」
?が頭をよぎった。
秘密だよ、誰にも言わないでね。って言ったよな?あれってどういうこと?
その夜、大量の玉ねぎを使ったカレーライスとなった。
目覚まし時計は母の思い出。
オーブントースターは、父と母が若かりし頃から使っていた物。
「寿命なんだなー」
それが胸にいたかった。
弟が、それはそうと言って差し出した名刺。
「ん?イギリス?なんでこんなもの」
「姉ちゃんがもらった玉ねぎに入ってた」
「は?」
実はと朝の出来事を話した。
「へー、じゃあ、この人は、うちの職場に来たのかもな」
「あれ?同じ会社でしょ?会わないの?」
工場と技術者たちは敷地の中でも違う場所で、大きな高層ビルで働いている、頭のいい人たちだという。
「そうなんだー」
「部署が違うとねー?親父も母ちゃんも違ったもんな」
でもなんで?が頭に浮かぶ。
「秘密だよ、誰にも言わないでね。って言われたんだよねー」とつぶやいた。
「なにそれ、おかわり」と皿を私のほうに押す弟。
「自分でしろ、おかしいと思わない?秘密って何?」
さあなーと裏返しながら、名刺を見ている父。
「まあ、この町にくりゃ、多くがうちの会社関係だ、いいんじゃないのか?俺もおかわり」
はい、はい。と席を立ち、カレーのおかわりを置いた。
「ものすごい美形でさ、イケメンってこういう人の事いうんだーと思った」
「美形!」「イケメン!」
なぜか男二人の声がそろった。
「姉ちゃん頼むから、男作らないでくれ!」
はあ?
「まだ嫁にはやらん!」
あのねー。
ごちそうさまという声の後。
「絶対、男、ダメ!」とおおきなバッテンを作り、風呂!といって立ち上がった父。
私は大きなため息をつくしかなかった。
自分だって、母さんと付き合ったの高校生の時じゃん。
片付けるとそこにある食器類は四つずつ。母のものはまだ捨てられないでいた。
親戚たちに渡した母の遺品。でも、それは全部ではない。
毎日は、まだ母がどこかにいるようで、まだ実感がない。
父は、あれから急に老けたような気がした。
お酒も控え、付き合いと言って外に出ることがなくなり、私たちと一緒に夕ご飯を食べるようになった。
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