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スマホを目覚ましにしてから一週間がたった。 昼休みの鐘と同時にラインが入り、父がお客様を連れてくるという。 別に珍しいことではなかった。父と母は同じ職場にいた、ただ父は工場で母は事務職だった。 お客は、二人が知っている人たち、私たちも小さなころから知っている人たち。でもあれから、ぴたりとそんな訪問者もなくなっていた。 何人? 二人。 OK。 「はあ、帰ったら速攻片付けだな」 母が死んでから、さんざんたる家の中に、私が家事をすることになった。まあ、さほど嫌いじゃないし。 「ねえ、ねえ!知ってる!」 親友が女子たちの注目を集めた。 「見て!イケメンゲット!」 スマホを見せるそこには、彼、かみさきさんが写っていた。みんながわっと寄ってスマホをのぞいている。 「花の彼氏だ」 「違いますー!」 「だったらいいよね」 「えー?私も付き会いたーい」 だったら?なんだかそのいい方に、カチンときた、でもまあ、関係ないしなー。 数枚撮った写真は、出会った時のようなラフな格好で、隣には外国の人らしい人ともに映っていた。 彼女は部活の最中に見つけ隠し撮りをしたらしく、その後、駅前の繁華街で彼を見つけとったみたいだ。 私に名前とか年齢とか聞くが知らないと答えるしかない。 「やばいねー、隠し撮りは」 「上げないから平気、ねえ誰か知らない?」 知るわけない。 誰よ? なんて声、男子にも聞いているが、知らないという声だ。 私は知らないふりでそこを離れた。 そして弁当箱を開けた。あの日大量にもらった玉ねぎの処理に困り、近所に分け、それでも余ったものを冷凍庫に入れ、そして、今日のおかず、玉ねぎたっぷりハンバーグになったのよねとため息をついた。 「ただいまー、何、姉ちゃんやってんだよ!」 「おかえり、あんた自分の物片づけて、それから手伝って―」 うちは、お客が来ると、外でバーべーキューか焼肉と決まっていた。屋根があるポーチは、父さんと母さんが作った力作で、ここから見る花火は格別だった。 コロナで中止になった花火大会は五年目、さみしい母を見て弟が花火大会もどきを近所の子たちとやったのが去年の事だった。 帰ってきた弟に、お客さんがくる話をして準備を始めたのだった。 笑い声とただいまの声に玄関に行くとそこには父の親友。 「今晩は久しぶりだね」 「いらっしゃい」 「入れよ」と父に促され入ってきたのは。 「あー!」「へー」 「ん?知り合いか?」 「チョット、かな?」 といった声は、あの日聞いた、いい声の持ち主、かみさきさんが、髪を短く切って立っていた。 「神崎幹夫です」 「小野花子です」 「はな」 ブーっと噴き出して、「浩太(こうた)ですよろしく」と手を出して握手した弟をジト見した。ふん、といったような弟は、しっかり肉をキープするように、焼きの準備を始めた。 自分の名前は嫌いだった、馬鹿にされているような気にさえなったが、意味を知ると、その名前を付けた両親にありがとうといった思い出が不意に頭を駆け巡った。 植物園で見た花たち、そしてものすごい花の中で、父は母にプロポーズした。 子供が生まれたら、花に関係する名前を付けたかった。 女の子、二人はすぐに声を合わせ、花子と名前を付けたという。 三人は仕事の話をしている。私たちは入っていけないような気がして、いつもなら、ここに母がいて、私たちの話を聞いてくれたのに……。 「花―、ビール」 父も羽目を外しそうだ。 「俺もういいや、風呂入って寝るわ」 え? おやじと言って、弟は三人に頭を下げとっとと引っ込んでしまった。 うそでしょ? 私は焼けたものを三人の皿に上げ、お酒を出して、なんだか女って損してるよなー。と母がしていたことを思い出していた。 「・・・はなさん?」 はい! イケメンの顔がそばに、そしてもういいよ、おなか一杯と言われた。 父とおじさんは、もうつまみは肉よりも、漬物や枝豆に移っていた。 「高校三年か、受験だね、大学?」 受験、ああ、そうだった。 「大学は、行かないかなー?」 「それじゃあ専門とか?」 首を振った。 「ここから離れられないから、就職かな?」と笑ってみた。本当は大学も行ってみたいし、専門学校に行ってみたいというけど、今は、何もしたくない、家のことで手えいっぱい。 「お母さん、残念だったね、俺、お母さんに背中押されて海外に行ってたんだー」 「お。・・・そうなんですね」 彼は、やりたいこととかないの?という。 「やりたいことはあっても、無理だから」 「無理?なんで?」 それに少し、イラっとした。 「関係ないでしょ、失礼します、お父さん、終わったら声かけて!」 何にも知らないくせに、簡単に言わないでよ! 私は部屋に入った。
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