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ある日の放課後、先生に呼ばれた。 「なあ、お母さんがなくなってショックなのはわかるが、自分の将来だぞ、ちゃんとお父さんと話しているか?」 三者面談に誰が来るのか、進路をかいて出す。 私は白紙で出した。 「……ねえ先生」 「なんだ?」 「何で高校三年で将来が決まるの?大学じゃなくて就職でいいって言っているのに、なんでそこまでして進めるの?」 お金の問題は、今は昔ほどかからない。 「それでもかかる」 「それはそうだが、就職はもっと厳しい、お前、地元に残りたいんであれば、大学に行って、役所に入る選択肢が一番大きいと俺は思うんだけどな」 「わかってます」 「そろそろ夏休みだ、開けると一気に受験だぞ、ほら、もう一度、ちゃんとお父さんと話し合え」 父さんには、大学受験を落ちたことにして、就職すればいいと決めていた。話せない。 弟が大学に行くというのは私が行きたいといったときに話していた。 母さんが父に夜、二人の大学はきついという話をしていた。借金の話もしていたのだ。 だから、やめようと思った。 母がいない今、父だけではやっていけない。 自分の将来は、父と弟のためでいいと、決めた。 その夜、父さんに呼ばれた、学校から連絡があったという。 「何で大学じゃなくて就職なんだ?お金の事なら心配」 「お金もそうだけど、二人だけで生活できるの?浩太が大学行ったとしても、誰が父さんの面倒見るの?」とゆびさした。 脱ぎっぱなしの作業着。 乾いた洗濯物の山。 置きっぱなしの新聞紙。 「その時は・・・自分でやる!」 「もういい、私は就職して、ここにいる、浩太が結婚するの見届けるまで、お父さんも再婚してもいいし、私はこの家にいる!」 「花子!」 私は家を飛び出した。 ゴロゴロと遠くで雷が鳴りだした、雨はすぐさま落ちてきた。 どこへ行く当てもなく、私は海に向かい歩いていた。 母さんと手をつなぎ歩いた道は、保育園へ行く道。 その先のバス停から母はバスに乗り、海のそばにある会社へと行っていた。 浩太を背負い、私だけが保育園に残されるのが嫌だった。 今になって、母の思いがわかるような気がする。 子供のため、そのためだけに命を減らした。 ぷっぷーとクラクションが鳴り、道を開けた。 車は通り過ぎると、ハザードランプを付け止まった。 「花子ちゃん?」 助手席の窓が開き顔を出したのは、会いたくない人。 「こんばんは」そういって通り過ぎた。 「ウオー、ストップ!びしょ濡れじゃん、どこ行くの!」 「お使いです、ああ、あったかいから平気、それじゃあ」 ストップ、を繰り返す人は車を降りてきた。 「まてって!」 腕をつかまれた。 「離してください、叫びますよ」 すると手を離した。 「おやすみなさい」 「チョット、どこ行くの、乗せていくから、乗って」 車に押し込められた。 「ほら、タオル」 「どうせ濡れるから」 「そうじゃない、透けてる」 え?我に返った、まだ着ている制服のブラウスから、ブラがくっきり見えていた。 タオルをかけた、恥ずかしい。 「どこ行くの?」 「その辺で降ろしてください、歩いて行けます」 「ノー!行先は決まっていないよね!帰るよ!」 「母の」 「ん?お母さん?」 なんだか涙があふれてきた。 「……母に、会いたい……」 「そうか……、よし、付き合え」 は? 神崎さんは車を走らせた。
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