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お盆が近づいてきた。
「花―!オカワリ!」
「はーい」
ここにいればいろんな国の言葉、それに英語も聞けて勉強になる。独身寮じゃなくて家族寮、それも三棟もある結構大きな団地のよう。だから子供たちもいてにぎやかだし、いろんな国の料理も教えてもらえる。仕事は、独身者たちの食事の面倒と掃除やもろもろ。管理人さんがいるんだけど、彼らも休みが欲しいわけで、こうして夏休みや冬休みはゆっくりするというわけだ。
弟は友達を連れてわざわざ勉強と言いながら遊びに来ている。友達ができたみたいだ、母さんに似てこういうのは早いんだよね。
「早く十月になれー」
と、隣でまじないをかける、神崎さん。
今日は早上がりで、迎えに来てくれた。
今部屋は満杯、海外の移動は九月から十月が多いからその時に部屋が開く、三月、四月は日本だけらしい。
今、彼は祖父の家、おばあちゃんといるのだが、早く出て行けと言われているのだ。
「ただいま」
「こんにちは、お邪魔します」
私の両親の親は早くに亡くなっていて私は辛うじて、父の祖母を覚えているだけだ。だからかな、彼のおばあちゃんに理想のおばあちゃん像を重ねている。
「ほら、どうだ!」
大きなカメのふたを開けると、いいにおいが漂う。
「うわー、もういいんですか?」
「食べられなくはないが、半年はつけていたねー」
今年漬けた梅干したち、その中でもカリカリ梅、大きくて、食べ応えがあって、前に来た時いただいて行って大好評だった。ずうずうしくも、今日もいただきに上がりました。
梅干し二種類とお漬物をもらってほくほく。
「まったく、何がいいんだか」
「アーそんなこと言う、日本の伝統食だぞ、貴重なんだからなー、ですよねー」
今日はそれだけじゃない、母からちゃんと聞かなかった、切り干し大根とちくわの煮つけ、ヒジキのおいしい食べ方なんかを教わりに来たのだ。
「これをレンジで二分チンして」
「げ、ピーマン」
「子供みたいなこと言わないの」
「まったく、いつまでも、ハナちゃんのほうがずっと年上に見えるわい」
ですよねー。なんて。
出来たものは今晩のおかず。いただいて帰ります。
お盆の風習はその土地によってもいろいろあるでしょうが、初盆なので、おばあちゃんいろいろ教えていただいてます。
「ほう、今は段ボールかい」
まだ組み立てられないでいる、お盆に飾るものをお供えする祭壇がある。
それに乗せる料理を母に食べてほしくて、こうして教わっているのだ。
「灯篭なんかの準備は出来ているんですが、父が…まだ、さみしいでしょうね」
「そうさな、まだ、まだ時間はかかるさ」
ノートに書いたものは、私の知らないことばかりで、おばあちゃんは、彼に手伝いに行くようにいうけど、仕事もあるのに、いいと遠慮した。
「こんないい子を、絶対ゲットしろ」
「うん、任せろ!」
孫と祖母会話かよと思ってしまった。でも、私は気に入ってもらえたようだ。
また遊びに来ますとたくさんの物をいただいて、彼の車に乗り込んだ。
「ねえ、なんでおばあちゃん早く出て行けって言ったの?」
「アー、あの家もう壊すんだ、ばあちゃんは叔母の家に行く、結構近いんだ」
「ふーん、もったいないな」
「そうか?」
屋根がはがれ、雨漏りがし始めた。直してはいるが、それだけじゃなくて、高齢のおばあちゃん一人で住むには段差の多い家は危険だという。
「あー。そうだね」
「それにあそこは借家でさ、返すなら、今らしい」
ふーん。
まあ事情はそれぞれだろうしね。
「でもさ、なんで、あのカギまだつけたままなの?」
彼が閉じ込められた部屋はまだ彼の部屋だ。部屋の前には南京錠が五つも付いていた。
「インテリア」
「まじで?」と言いながら笑った。
「戒めかなー」
彼はぽつりとそういった。
「戒めですか?」
「この先、だれかと生きていくための、戒め」
ふーん。
「あ、お父さん!」
「え?どこ!」
ほっぺたに人差し指が刺さった。
クククと笑う彼。
「まったく、がきんちょ」
「まだまだ、がきでーす」
彼は指を下すと私の手を握った。
「お母さん、帰ってくるの楽しみにしてるだろうね」
その言葉が暖かかった。
「そうだね、彼氏だよって言ったら驚いて出てきてくれないかなー?」
そういってぎゅっと握り返すと、真っ赤になったのが分かった。
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