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召喚魔法。
「いや、もう、なんて言ったらいいのか……」
「ですよね……」
頭をかかえる私に、ため息をつきながら女神様が頷く。
この世界は元々、人やら動植物やら物やらが、やたらとほかの世界から迷い込んでくる。
おそらく、私が元いた世界で言うところの〈神隠し〉の一種なのだろうと思う。
その事もあって、この世界で召喚魔法を使うアホ……もとい、浅慮な者は基本的に存在しない。
こちらに迷い込んでくる中で力の強い者に対しては、神様達が調整してくれているらしいが、こちらからわざわざ「さあさあ、どうぞ」と扉を不用心に開け放ったら、どんな得体のしれない化け物がやってくるか予想もつかないからだ。
せりの使う〈召喚魔法〉は、普段は深海の底にいるクラーケンを違う場所に呼び出すもので、ジルコニア王国の使ったものとは似て非なるものだ。
しかし、〈召喚魔法〉が成功したから神に選ばれたって。
この世界では、成功しすぎるから誰もやらないだけでさぁ……。
「だいたい、勇者なんか召喚しても仕方ないでしょうに」
魔物や盗賊は存在しているから安全な世界とは言い難いが、勇者を必要とするような危機が迫っているわけでもない。
ソレは、数年前に終わっている。
「魔王がいるわけでもない……し……」
ん? まさか?
ちらりと女神様を見ると、真剣な表情でこくこくと頷いている。
そういや、いたよ、うちに魔王様が!
魔王ことくぅは、女の子とは思えないほど大きくて筋肉質な真っ黒な猫だ。
スキルは、〈火魔法〉〈水魔法〉〈岩魔法〉〈剣魔法〉〈複合魔法〉〈威圧〉〈精霊の加護〉、加えて〈物理無効〉〈魔法無効〉の完全ラスボス仕様だ。
若い頃のようには暴れなくはなったが、こちらの世界に来た時に嫌な思いをしたらしく、鎖や檻などを見ると問答無用でブチギレる。
そのせいで、何度世界を滅ぼしかけたことか……。
〈竜殺し〉やら〈神殺し〉やら、私に物騒な通り名がついているのも、だいたいはくぅがやらかしたことが原因だ。
いや、まぁ、〈竜殺し〉に関してはうちの猫達全員がやらかしていますけどね……。
そんなこんなで、くうは〈黒の魔王〉と一部では呼ばれており、盗賊の間では見かけたら全力でほかの国に逃げろと言われているらしい。
逃げてもキングの〈空間転移〉があるからムダだけどな。
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