趣味

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 ウォーキングを趣味としている。  本当はジョギングだったが、冬に腰をやった。  腰をやるのは初めてではない。  今回、腰をやった時、昔から行っている整形外科ではないところに行った。理由は、その整形外科の看護師やリハビリの対応が前から嫌だったからだ。  腰をやるたび、ああ、またあの人たちの顔を見るのかと毎回思ってしまっていることに、何だか気が付いてしまった。それで、そんなに嫌なら別のところに行くべ、と、思ったのだった。  整形外科でも皮膚科でも、受付で嫌だな、と感じたら、迷わず他を選ぶほうが良い。  嫌だな、と感じても、「いや、受付の人はこんな感じだよ。看護師さんだって忙しいんだよ。意味はないよ。こんなことで嫌と感じるなんて」と自分に呆れたり、いろいろな理由をつけて、その相手に固執するのは良くない。  だいたい、常識とか、義理とかしがらみとか、そういうものが作用して、嫌なのに合わせる、という方向に行きがちだ。  息が詰まるから、逃げたほうが良い。  ちょっと遠いところに行くことになったとしても、近場だからという理由だけで、そんな嫌なところに行って嫌な気分になって、おまけに再診の予約なんか入れられたら、その日のことばかり考えてしまいそうだ。しかも、その嫌な事のためにお金を払うのはこっちなのだ。  はじめて行った整形外科は、なんか、えらく軽いノリの先生だった。  走ってたら腰やったと言うと、走るな歩けと言われた。それも三回くらい繰り返された。診察が終わって部屋を出る時にも言われた。  そこまで言われたら、ジョギングではなくウォーキングをするしかなかった。  ところが、ウォーキングは意外に良かった。  体力が長持ちするので、長い事外気に触れていられる。  歩く時間は夜更けか、夜明け前だ。  なぜなら、近所の人が面倒くさいからだ。  正直、仕事以外で人と喋るのは面倒くさい。  顔を合わせたら挨拶をしないと後が怖いなと思う。だから、挨拶をしてみる。けど、相手から無視されたりしたら、それだけでもう、全部が面倒くさくなる。  仕事でも、まっすぐに物事が伝わらないと会話が嫌になって、はいはいすいません全部このワタクシ目が馬鹿なせいでござんすよ、それで結構です、と全部自分でかぶってしまうくらいに、人間関係に関してはものぐさである。  何かいっても、言い方がどうとか受け取り方とか、そういうことが叫びたくなるほど苦手である。気遣いしすぎて疲れてしまう。  そんなだから、もともと、人と出くわすような場所には行きたくない。  でも、ウォーキングをするようになって、あまりにも気持ちが良いので、自分がこんなに外の空気を欲していたのかと驚いた。  人が面倒くさい、喋るのが面倒くさい、できれば放置しておいてほしい、寄るな触るなという性分だけど、外に出て風を感じていたい。でも見られたくない。  たぶん、一番面倒くさいのは、わたし自身である。  人に会いたくない。でも外に出ていたい。  人目を忍ぶウォーキングは、わたしにとって、セレブちっくな贅沢タイムである。    
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