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私は放課後よく教室にいる。光己が迎えに来るまで。窓側の後ろから2番目の自分の席でに座って、両手を机の上に伸ばして突っ伏す。
鳥の鳴き声、話し声、遠くからの吹奏楽部の演奏を聞きながら、うとうととしているのが気持ち良い。
しばらくして、私の手のひらに何かを掴ませようとする人がいる。もう何回もやられているので慣れている。
いつになったら飽きるのだろう。私は突っ伏したまま思う。元はと言えば光己を待つようになって、暇で突っ伏していた日が始まり。
昨日は個包装のキャンディー、その前はタンポポの花、小さいスーパーボールの日もあった。さすがに百均かなんかのゴムのおもちゃのカエルを握った今は、慌てて飛び起きてカエルを叩きつけてやった。ゴムだから痛くないでしょ?
「なぁカエルの握り心地どうよ、後なゴキブリやクモもあるから楽しみにしとけ」
「虫はもうやめて。おもちゃでも嫌なの」
笑いながら私の手を握って立たせる。いつもならこっちから冗談で手を出しても握ってくれないクセに。今日はどうしたのだろう。
「今日さ、少し遅くなっても大丈夫? 無理なら別の日にしてもいいんだけど」
「今日? 塾ないし大丈夫だよ」
校門を出ていつもなら左折して駅に向かう。けれど今日は右折して2人で歩き続ける。
「何処行くの、こっちは市民センターの方だよね。部活の練習見に行くの? だったら私はゴメンだよ」
体育館の使用部活は曜日で決まっている。光己はバレー部だったけれど、3月いっぱいで退部している。名残惜しいのだろうか。
「違うよ、もう少しで着くから。こっちの道に行くから」
先頭切って歩く光己が頼もしい。もう少しで着くと言ったけれど、私はこっちの地域に来た事ないし不安を抱えながら歩いた。
あれ? 聞いたことある声がする。着いた場所に私は立ち尽くして、目の前の光景をじっと見つめた。
小学生の私と光己が、枝垂れ桜の枝を折らないように近づけて桜の花を2人で見つめている。他にも班の子だった数人がいて賑やか。
菜の花に寄ってきた蝶を光己がつかまえて、私の左肩にそっとのせた。
そうだ。この光景は卒業前に班のみんなで遊びに来た時と一緒だ。って事は来た事のある場所。
「あのさ、この桜の噂って知ってる? 」
桜の花びらを池に浮かべて遊んでいた遊んでいた私に光己は言った。私は立ち上がって言う。
「えっ噂なんてあるのかなぁ。きれいな枝垂れ桜だから良い噂だよね。悪い噂じゃないよね」
「うん、もういちど枝垂れ桜の所へ行こう」
光己に言われて一緒に枝垂れ桜に行った。みんなに注目されそうだったけれど気にしないようにした。3人はブランコに乗ったり菜の花を見たりしている。
「この枝垂れ桜の花びらを集めて貼って桜の花を作って、好きな人と交換すると両想いになるって」
「光己は信じるの」
「うーんどうかな、そうなったらいいなって思うよ。桜の花びらのパワーで両想いになるって夢があっていいよな」
光己も私もその時は拾わなかった。まさか光己がずっと片思いの相手になるなんて思ってもいなかったし。
私は高校生になった光己と、枝垂れ桜の脇のベンチに腰掛けた。枝垂れ桜もまわりの桜もそろそろ終わる頃だ。
「さっきボーッとしてただろ。まだ眠いんなら俺が目を覚ましてやるよ」
ポケットから、さっき私が投げつけたカエルのおもちゃを出した瞬間、四角に折った紙が落ちた。カエルに気をとられた光己より私が先に拾った。
慌てて取り返そうとした光己の顔が赤くなっていた。どうしよう気まずいなあ。素直に返す事にした。その紙には花びらで作った桜があった。
私は生徒手帳にはさんでいた四角い紙を取り出して両手で広げて渡した。不器用な私の作った桜を見てもいつものように茶化さず、受け取って自分の手にしていた紙を渡してくれた。
「アレだ、俺は昨日ここで拾った。美潮はいつ拾った」
「私はさっき。光己がトイレ行ってから池見ていた時」
「俺と交換して良かったんだな」
頷いた私の目の前に今度はクモのおもちゃ登場。
「だからー、嫌だって言ったでしょー」
雰囲気ブチ壊した光己を追いかける私の片思いは終了。
(了)
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