距離1,000キロ

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距離1,000キロ

 山谷亨(やまたにとおる)はひょんなきっかけで長崎の街に住むことになった。東京に住んでいたが、鳴かず飛ばずの車載機器メーカーの会社で後先がなく、このままどうしようかと考えていたところ、公子(きみこ)の仕事仲間、山川(やまかわ)の目に止まり声を掛けられた。公子は亨の姉である。 「山谷君。君さぁ、営業よりサービス業向きじゃない? 笑顔もいいし、対応力もあるし……営業もいいけど接客業向きだと思うんだよね。考えてみない?」  山川は長崎、公子は福岡に住んでいた。二人は営業でたまに東京に来て、亨はその間、二人の仕事を手伝っていた。営業のアシスタントという役割で、難しいことはなく下り坂の給料じゃやっていけないので助かっていた。 「なんの仕事ですか? サービス業って」 「夜の仕事さっ……姉さんからは経験がないって話は聞いてるけど君なら向いてると思うんだよね。やっていけるって……私の目は確かなんだ。長いことやってきたからね」  亨は少し考えた。今の会社じゃどのみち倒産するのも時間の問題だろう。だったら試しにそっちの道に乗り変えるのもいいかもしれない。 「よろしくお願いします」  亨はあっさりと承諾してしまった。
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