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今度はコロさないでね
おぞましくも美しい花が咲いている。
昔から春は嫌いだった。杉花粉や黄砂は飛ぶ、行事はある、宴会だなんだとさわがしい、新年度はいそがしい。
なによりも嫌いだったのが桜の花だ、靴裏にこびりついてとれない花びらは毎日を憂鬱な気分にさせる。
「ハルトさん、こっちこっち」
「ミサ、走るなよ」
夕刻、花見で賑わう公園、ハルトは軽快に歩くミサを追いかけた。正直、同伴とはいってもミサとは花見に来たくなかったのが本音だ。
ミサは今通っているキャバで働いている嬢で、ハルトはその客に過ぎない。深い関係になるつもりはなく、軽く遊べればよかったのだが、思ったよりミサに気に入られてしまった。
こんな地方のキャバに来るのはジジイか年嵩の独身ばかり、ハルトのような若い男はめったに来ないのだとミサが言っていたのを思い出す。
「若い人はぁ、お風呂に行っちゃうか奥さんのとこばっかりでキャバになんか来ないの」
「付き合い、出張でもか」
「付き合い、出張では来るよぉ、でも一回か二回で終わり」
「へえ」
「だからあ、ハルトさんが来てくれてうれしい。いつも会いたいから」
若い女が出稼ぎに行く地方のせいか、都心のキャバに比べ女のレベルが総じて低かった。性欲を発散させるだけなら性風俗の方がよほど簡単でいいだろう。ミサだって、気が利かずバカっぽい話し方をしていて顔立ちも美人とは言えない。
ハルトがミサと会っているのは、通っているキャバで一番ましな容姿で、簡単に抱かせてくれるからだ。この点、都会の女より唯一優れた点とも言える。満開の桜を背景にミサが笑う。
「ハルトさん、楽しいねえ」
ハルトは愛想笑いをした。
「そうだな」
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