Mr.ポワソン・ダブリルとオネスト・ジェーン

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Mr.ポワソン・ダブリルとオネスト・ジェーン

 ジェーンは赤いおさげのかみとそばかすと緑の目の、とても正直者で真面目な女の子です。すききらいはありません。ほうれんそうだって、ブロッコリーだって、ニンジンだって何でも食べます。でも、苦手な日はありました。それはエイプリルフールの日です。真面目で正直者のジェーンは、いつも同い年の子たちのこの日のイタズラやウソにいつも引っかかってしまうのです。特にイジメっ子のピーターにはずっとからかわれてしまいます。  今日はエイプリルフールの日でした。ジェーンはイジメっ子たちに見つからないようにこっそり学校から帰ります。そんな帰り道の中でした。ジェーンはおかしなものに出会いました。 「さよなら、今日は天気が悪いね。お散歩をするには最悪な日だ」  何と立派なしんしの服を着た背の高いお魚が話しかけてきたのです。それもおかしなことですが、言っていることもおかしいのです。なぜなら今日は、お散歩日和なほど良い天気、お日様もさんさんとかがやいて、お花もさいてあたたかな日だからです。 「わあっ!お魚がしゃべって歩いてるわ!」  正直者のジェーンはすぐにおどろいて言いました。ですが、お魚のしんしはそんなジェーンに胸を張って言います。 「それはおかしいね。今日はエイプリルフールじゃないんだ。魚がしゃべって歩くフシギなことが起こるはずないじゃないか」  最初の言葉もそうでしたが、お魚のしんしがしゃべる言葉はめちゃくちゃであべこべです。ジェーンは信じられない顔で目をパチクリするしかありません。  そんな風にジェーンがおどろいているときでした。イジメっ子のピーターたちがこっちへやって来ます。 「あ、見ろよ! いい子ぶってるジェーンだぜ!」  ジェーンは困りました。ピーターたちはイジワルそうな顔をしています。エイプリルフールのウソでジェーンをからかいイジメるつもりです。ですが、そんな時でした。お魚のしんしがピーターたちの前に出ます。 「な、なんだよお前……」  ピーターたちが見たこともない歩くお魚のしんしにうろたえていると、お魚のしんしはピーターたちの顔をジッと見ました。そして、フムとうなるとこう言います。 「今日はいい天気だと思わないかい? 君たち。お日様がかがやいて、雲一つない、君たちのような良い子たちには相応しい天気だ」 「はあ?」 「何言ってるんだコイツ」  ピーターたちが疑問の声を上げたそのときでした。急に空が暗くなり始めます。そして、何と雷がゴロゴロと鳴り出し、稲妻が光り、風がビュービュー吹いて、バケツをひっくり返したような土砂降りの雨が降り出したのです。しかし、ジェーンとお魚しんしの上ではそんな嵐が来ていません。ピーターたちの周りだけ嵐が来ているのです。 「うわあ!」 「帰ろ帰ろ!」  一目散にピーターたちはジェーンたちの元から駆け出し逃げるように去っていきました。嵐の雲がピーターたちの後を追いかけます。ジェーンはおどろいてそれをぼんやり見ているしかできませんでした。ウム、とお魚しんしはどこか満足そうな声を出すと、再びジェーンの方を向きました。 「エイプリルフールはつまらない日だ。だから、いい子たちにはここにいてもらわないと。君はそう思わないだろ?」  お魚しんしはニッコリ笑って言います。ジェーンはただそんなお魚しんしの顔を見るしかできませんでした。そんなジェーンを前にお魚しんしは今度はジッとジェーンを見つめます。すると……お魚しんしはジェーンの手を握ると、そのまま歩き出そうとしました。 「ま、待って、どこ行くの!?」 「エイプリルフールはもうすぐ終わるんだ。ゆっくりして。時間はまだたっぷりある。君はエイプリルフールを今まで楽しみすぎた。だから、今日はちょっとつまらない日にしないと」 「え、ええ!?」  真面目なジェーンは知らないお魚について行っていいのか心配でした。でも、お魚しんしは止まってくれません。ジェーンはそのままお魚しんしについていくことになりました。  お魚しんしとジェーンの行く先々はフシギなことがいっぱいでした。枯れた公園の野原に来たときは…… 「何て素敵な場所なんだ。花が一輪も咲いていないなんて」  こうお魚しんしが言うと、何と枯れた野原は花でいっぱいの花畑になりました。花畑の花でジェーンに花カンムリを作ったお魚しんしは「汚いね。ちょっと君には似合わないよ」と言いました。  次に、道を歩いていると近所で凶暴と有名なワンワンと周りにほえてばかりで今にも噛みつきそうな犬に出会ったときは…… 「さようなら。ごきげんでお利口なワンちゃん。悪い子になろうか」  お魚しんしがそう言うと、たちまち犬は大人しくなりました。そして、お魚しんしの手をペロペロとなめます。「これで君も怖くなっただろ?」とお魚しんしはジェーンに言いました。  次に公園のボロボロのイスとテーブルに来たときは…… 「素晴らしい場所だ。お茶の時間に相応しくないようにしないとね」  お魚しんしがそう言うと、ボロボロのイスとテーブルはたちまちキレイな白いイスとテーブルに変わり、テーブルにはクロスがしかれ、お魚の形の美味しそうなイチゴのパイが乗ったお皿にフォーク、ホカホカでいい匂いのお茶が入ってカップとお茶の準備が完璧に仕上がりました。お魚しんしとジェーンはサクサクで甘酸っぱいイチゴのパイとお茶を楽しみました。  お魚しんしと一緒にいるうちに、すっかり夕日が街の向こうへと隠れようとする時間になりました。ジェーンの初めてのいつも通りじゃないエイプリルフールも終わろうとしています。 「今日はちょっとつまらない日になったかい?」 「うん、えっと、つまらない日になったわ」 「ひどいね」 「ふふ」 「まだこんな時間だね。もう少しここにいないと」  お魚しんしはそう言います。ジェーンは少し寂しそうな顔をしました。なぜなら、一日でもうお魚しんしの言うことがわかるようになってしまったからです。 「また会え……じゃない、もう二度と会いたくないわ。もう会えない?」  それを聞いたお魚しんしはニッコリ笑って答えます。 「絶対二度と会えないよ。来年のエイプリルフールに、君が会いたくないなら私は会わないからね」  それを聞いてジェーンは嬉しそうに笑いました。そして言います。 「約束しないでね!」 「うん、しないよ」 お魚しんしとジェーンはおたがい笑って「こんにちは」と言いました。 こうして、初めてのジェーンの「ちょっとつまらない」エイプリルフールは終わりました。
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