サラマンダー広田

1/14
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ
幼い頃、夕方のテレビ画面に映るトカゲマスクの巨体を見るたびに僕は震えていた。  鉄パイプや鋏攻撃、相手選手への複数名でのリンチなど数々の反則攻撃。極悪非道の限りを尽くすトカゲマスクの「サラマンダー広田」は国民にとっての悪の象徴だった。  時は流れて僕は彩夏と出会い、恋に落ちた。そして互いに働き始めて結婚が見えて来た矢先。僕は彼女からとある秘密を打ち明けられた。 「拓斗。近いうち、うちのお父さんに会ってみる?」 「うん。そろそろ、ちゃんと挨拶しないとな」 「実はね……うちのお父さんね、サラマンダー広田なんだよね」 「え? 似てるってこと?」 「ううん。似てるんじゃなくて、本人なの」  彼女は線が細く、華奢なタイプだからまるで点と点が線で結ばれなかったけれど、彼女の苗字は確かに旧漢字の方の「廣田」だった。  そして、彼女の父が実際に僕を連日恐怖に陥れていたあの覆面レスラーであることは、実際に会ってみるとマスクなしでも本人であることがひしひしと伝わった。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!