サラマンダー広田

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 それからわずか一ヶ月後の桜の季節。  義徳さんの死を僕は朝のテレビニュースで知った。急性脳梗塞で、自宅から搬送後すぐに死亡が確認されたと聞いた。  彼女が心配になって電話を掛けてみると、涙声ではあったものの話は出来た。  これからバタバタするけど、お父さんに会ってくれてありがとう。  そんな風に言っていたけど、気丈に振る舞っているのは声で分かった。  出来ることがあれば何でも言って欲しいと伝えて、僕は葬儀へ顔だけ出す形にして時間が彼女の痛みを和らげるのを待った。  葬儀が終わった頃から、サラマンダー広田の試合DVDをレンタルして観る機会が増えた。  小さな頃は反則技ばかり繰り返す極悪非道なトカゲだとばかり思っていたけれど、リングでの試合運びはプロレス素人の僕が観ても感心してしまうほどだった。 「かかって来いよ! この前はやられちまったけどなぁ、尻尾を切られたトカゲの恐ろしさ味合わせてやるよ!」  口汚く相手を挑発するのはもちろんのこと、反則技を繰り出す際に観客を煽る姿はヒール特有の魅力があった。 「今から、このクソレスラーの処刑を始める。死刑に賛成の奴ら、声を上げてみろよコラァ!!」  左手は相手レスラーの髪を掴んだまま、右手に握られた鋏を振り上げて観客を煽るサラマンダー広田は名役者のように思えた。  あんなにおおらかな性格だった義徳さんの「仕事」がほんの少しだけれど、垣間見えた気がした。
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