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酒を酌み交わした時に、僕は義徳さんにこんなことを聞いてみた。
「レスラーって危険なことばかりだと思うんですけど、怖いなって思うことありますか?」
義徳さんはその手の質問に慣れているのか、ははっと笑いながら腕組みをして宙を眺め始めた。
「実際はね、怖い。すごく怖い。怪我は痛いし、痛みに慣れるなんてことはないからね」
「でもずっと続けてるなんて、凄いです」
「うーん。下手したらさ、死ぬんだよ。そんな奴いっぱい見て来たしさ。拓斗くんはさ、死ぬことは怖い?」
「え……はい、もちろん怖いです。想像も出来ないですし」
「そうだろ? でもさ、死んだヤツって帰って来ないじゃない」
「まぁ……確かにそうですけど」
「だからさ、もしも死んじまった時は死んだ奴らにこれから会いに行くんだって、そう考えてる訳よ」
そう言って笑っていたけれど、義徳さんは無事に死んだ人達に会いに行けたんだろうか。
死ぬって、何なんだろう。生きているって、何だろう。
そんなことをぼんやり考えている間に、日々は過ぎて行った。
彼女からのメッセージを読んだ昼休み。
僕はあまりに突然の知らせに気が動転してしまった。
『拓斗へ。迷惑をかけます。連絡はしばらく取れなくなります。本当に、ごめんなさい』
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