5人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
ハッと目を覚ますと、ひんやりとしたレジャーシートの感触が頬を掠める。
「先輩、やっと起きたんですか?」
「……え?」
体を起こすと、少し心配そうな顔をした後輩が視界に入る。ああそうだ……今日は大学のサークルでお花見に来ていたんだっけ。
「先輩バイトのシフト入れ過ぎなんですよ。学生の本分は学業ですからね。全然飲んでないのに急に寝ちゃうから心配しました」
「ああ、ごめん、ちょっとトイレ」
何だろう、夢をみていた気がする。
とても、とても大事な夢。
「あ、場所分かります?」
「うん、大丈夫」
フラフラとお花見会場を出て、少し歩くとそこには立派な桜の木があった。
「……綺麗」
ポツリと呟いた言葉を風がさらっていく。そっと幹に触れた時。
「久しいな、人の子」
「……」
この世のものとは思えない程美しい人が立っていた。心臓が鷲掴みされたように目を離す事が出来ない。
「名を、お伺いしても?」
今度は、眠ったりしないから。
美しい人は目を細めて微笑んだ。
【完】
最初のコメントを投稿しよう!