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とりあえず目の前の元婚約者らしいあんちゃんにお辞儀しとこう。
「承知しました。お幸せに」
結婚願望ないし、実際35歳まで独り身でも問題なく生きてたし。
今はパーティーのさなからしくて、まわりがざわついている。
こんな大勢の前で馬鹿な宣言できるってさ、元婚約者未来を見据える力がないわ。
肩を抱かれているミラは悪質ナンパ男に詰め寄られる女子高生みたいな、泣きそうな顔している。
「ねぇミラ様。私と一緒に来ませんか? この方、何度でも不誠実なことをしてしまいそうだもの。あなたが不幸になるのを見たくありません」
ニッコリ笑顔でミラさんに微笑みかければ、ミラさんもやはり迷惑していたのか、肩に回されていた元婚約者の手をはたき落とした。
駆け寄ってきて私の手を取る。
「クリティアお姉様、素敵です。わたくし、あなたのように殿方に頼らない生き方をしたいわ。姉妹になってくださいませ」
あらなんてかわいい子。
妹分ができたみたい。
「え、ちょ、ミラ嬢。僕は君と初めて会った日から君が好きだったのに!」
「ロブソン男爵様。わたくしはいくらお断りしても手紙を押し付けられるし、婚約者でもないのに手を握られるし、迷惑でした。何より貴方様にはクリティア様という婚約者がいるのに、他の女性にうつつを抜かすなんて不誠実ですわ」
やっと名前がわかった。元婚約者はロブソンね。
婚約破棄されてよかった。
「そ、それじゃあクリティア。やっぱり僕が結婚してあげるから、さっきのは聞かなかったことに」
「なりません」
ロブソンは髪をかきあげ遠吠えをあげる。
「そうかいそうかい。まあ、この会場に令嬢は大勢いるし、美貌の僕と結婚したい女性はいくらでもいるさ! さぁ僕の胸に飛び込んでおいで、ハニーー!」
モーゼの十戒のごとく、サーーーっとロブソンのまわりから女性陣が引いた。
一人もいないようだねロブソン。
騒ぎに駆けつけた父親と思しき髭男爵が、私に何度も頭を下げ、ロブソンの襟首を掴んで退場していった。
さて私はというと、無事正式に婚約破棄となり、ミラという妹分と仲良くお茶をしながら暮らしている。
「クリティアお姉様、わたくしの弟と結婚してくださいませ。そうすれば本当に姉妹になれます」
「あらあら。あなたの弟はまだ12歳じゃないの。未来を決めたら可哀想よ」
「では5年後にもう一度打診しますわ」
12歳児とは結婚できないわ。中身35歳女として。
いきなり婚約破棄現場に遭遇したときはどうなるかと思ったけれど、解決してよかった。
結婚するより楽しいから、ミラとお茶を飲んで過ごしましょ。
END
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