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俺が「開かない」とミズキに言う。ミズキが恨めしそうに扉を睨む。既にイーチとそのお世話係たちも、隣の自分の教室に入っていた。廊下には俺とミズキしかいない。
ミズキが思い出したように言う。
「さっきは守ってくれてありがとう」
「うん」
「腕、痛くない?」
「まぁ、大丈夫だと思う」
「そっかぁ。ところで。さっきサエちゃんが、告れって言ってたけど……、アレ何?」
俺は戸惑う。でも適当な言い訳も浮かばない。
「それは、サエが言うには、ミズキが俺のことを好きで……」
「……うん」
「俺も、ミズキが好きだから」
「……うん」
「告れって言われたんだ」
正直に話した。
「それでぇ、どうする? 告る? 私のコト、好きなの?」
「好きだよ……、告っていいの?」
――俺の精一杯の勇気のセリフ。ダサすぎる。
ミズキが小さな声で言う。
「告って欲しい……」
俺の脳みそは、”告って欲しい”という言葉に呼応して、頭の中にサイレンが響き渡った。
――だってそれはそう言うことでしょう? 告れば返事は、イエスってことだよね?
しかしこんな短時間で、適切な告白が思いつかない。それで何の工夫もないダサいセリフを、ムードのない学校の廊下で吐いた。
「好きです。俺の彼女になって欲しいです。付き合ってください」
ミズキの表情がパッと輝く。
「やっと、言ってくれた。嬉しい」
俺はミズキの返事に、嬉しくて叫びそうになったが、しかし待てよと思う。
――付き合うかどうかの返事になってない。
それでそこを確かめるために、「それって……」と俺は言いかけた。
次の瞬間、教室の中からサエが飛び出てきた。
「ヤッタァ!」
サエが俺の代わりに叫んでいた。ヨシマイやアサカワたちも飛んで出てくる。それから他のクラスメートも顔を出した。
――俺は愕然とする。
俺は顔が熱くなる。公開処刑ってこう言う事だと思う。
「あぁ。おまえらぁ! みんなで聞いてたのかぁ」
サエがワクワク顔で言う。
「大塚への返事を聞かせて! まだちゃんと返事してないよ。嬉しいだけじゃ、断る前振りってこともあるしぃ」
クラスメートの視線が熱い。
皆が固唾を飲んで、ミズキの答えを待つ。
するとミズキが、俺の耳に口を寄せて言う。俺が真っ赤になる。
サエが叫ぶ。
「あ! なんて言ったのぉー」
ミズキが照れる。
「秘密だよ」
クラスメートが不満の声を上げる。
「何だよ」
「ケチ!」
「教えて!」
「いいなぁ」
ヤジが飛び交う。
さて、これでようやく俺の話は、冒頭に戻ったのだが……。
え! ミズキが俺にだけなんて言ったかって?
それは……。ミズキが俺になんて言ったかは、どんなに聞かれても“秘密”だ。ミズキが俺にくれた大事な言葉だから。
――俺の宝物だから。
でも俺の心から湧く言葉は、この世の全てと分かち合いたい!
俺は心に湧いて止まらない言葉を放つ。
「ミズキが好きだ! こんな俺だけど、ミズキに、頼りにされたい! ずっとよろしくお願いします!」
熟れたトマトみたいに赤い顔したミズキが、目を丸くして俺を見ている。
クラスメートの歓声が響き渡った。
――fin――
ちなみにミズキの秘密の言葉は、スター特典にて公開しましたぁ。
見たい人だけ、見てね!
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