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俺はミズキの視線の銃弾を受けて、イーチが俺とミズキに「絶対この事は誰にも言うな」と言った、3日前の放課後を思い出す。
俺が下校しようと昇降口で靴を履いていると、ミズキが俺に近づいてきて言った。
「ねぇ。大ちゃん」
大ちゃんとは俺のことだ。俺の苗字が大塚だからだ。
「何?」
「付き合って欲しいんだけど」
俺はドキンとした。
「え? え?」
俺はあたりを見回す。
「付き合って……。え?」
――こんな場所で告白ですか?
俺はドギマギして、顔が熱くなる。
「私さぁ。呼び出されてしまって。一緒に行って欲しくて」
「あ、そう言う」
俺は正気に戻る。
――ミズキが俺に、男女として付き合ってなんて、言うはずない。
俺は聞いた。
「誰に呼ばれたの?」
ミズキがあたりを見回して、それから俺の腕を引っ張って、昇降口の外の人気のない場所に誘導する。
誰も俺達の会話を聞けないと思う場所でミズキが言った。
「イーチくんだよ」
「イーチ? マジ? あの出来杉君?」
「そんな言い方して……」
「だって、優秀過ぎるでしょう? イーチってさ。で、何で呼び出されたの? やっぱりそう言う事?」
「告白うぃ受けそうな予感する」
軽くショックを受ける。俺は勝負する前から、イーチに敗北だ。なんせ俺がイーチに勝てるのは、勉強だけだ。
――きっと、ミズキはイーチと付き合うんだろう。
俺はそう思うと切ない。しかし、いつかこういう日が来る事はわかっていた。想定内だ。
平静を装い、俺は言う。
「マジかぁ。イーチかぁ。良いじゃないか。イーチだろう? イーチなら男の俺でも付き合いたいよ」
俺はイーチとミズキが付き合ったら切ないが、イーチとミズキはお似合いだと思う。
――大丈夫、俺は頑張れる。耐えられる。ミズキの幸せを見守れる!
しかしミズキの表情は浮かない。
「うーん」
「嫌なの?」
「嫌って言うか。サエちゃんが、イーチを好きなんだよ」
「え? サエ? サエには高望みだろう? なんでサエとイーチが付き合えるんだよ」
「サエちゃんは、明るいし、可愛いし。人気もんだよ」
俺はサエの顔を思い浮かべながらいう。
「まぁ、人気はあるんだろうけどなぁ……」
サエは男子とは気軽に話すし、そう言う意味では人気あるけど、女扱いはされにくい。
「サエちゃんがイーチを好きなのに。私が付き合えないよ」
「まぁ、そうだよね。分かるよ」
――俺はミズキに同情した。サエの好きな男に告られたとバレたら、それだけでサエに相当キツく当たられるだろうし。最悪仲間外れにされる。
「それに私には好きな人いるし」
「え? 好きな男がいるの」
初耳だった。
――俺は大丈夫。俺は耐えられる。いずれ通る道だ。
ミズキがオレの顔を、主人を見つめる犬のように見て「うん、好きな人いるんだ」と言った。
――待て、待て、待て。好きなやつへの想いを俺にぶつけないでくれ。その表情、可愛過ぎて俺には毒だろう。
……と俺は思う。
「でもまだ、イーチに告られるって、決まった訳じゃないだろう?」
ミズキは眉毛をヘの字に曲げた。それがまた可愛い。
「1年の時。イーチくんが、バレンタインの数日前に、私に言ってきて……」
「なんて?」
「チョコ欲しいなって」
「それで」
「イーチくんなら、手に持ちきれないほどチョコ貰えるよって言ったの……」
「うん、それで」
「イーチ君がこう言ったの。俺は、沢山の人からチョコが欲しいんじゃないんだよ。1個でいいんだ。唯一人の女の子からだけチョコが欲しいんだ。それ以外のチョコは、意味なんてないんだ。ただのチョコだよって」
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