前編

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 俺はミズキの視線の銃弾を受けて、イーチが俺とミズキに「絶対この事は誰にも言うな」と言った、3日前の放課後を思い出す。    俺が下校しようと昇降口で靴を履いていると、ミズキが俺に近づいてきて言った。  「ねぇ。大ちゃん」  大ちゃんとは俺のことだ。俺の苗字が大塚だからだ。 「何?」 「付き合って欲しいんだけど」  俺はドキンとした。  「え? え?」  俺はあたりを見回す。  「付き合って……。え?」  ――こんな場所で告白ですか?  俺はドギマギして、顔が熱くなる。  「私さぁ。呼び出されてしまって。一緒に行って欲しくて」  「あ、そう言う」  俺は正気に戻る。  ――ミズキが俺に、男女として付き合ってなんて、言うはずない。  俺は聞いた。  「誰に呼ばれたの?」  ミズキがあたりを見回して、それから俺の腕を引っ張って、昇降口の外の人気のない場所に誘導する。    誰も俺達の会話を聞けないと思う場所でミズキが言った。  「イーチくんだよ」  「イーチ? マジ? あの出来杉君?」  「そんな言い方して……」  「だって、優秀過ぎるでしょう? イーチってさ。で、何で呼び出されたの? やっぱりそう言う事?」  「告白うぃ受けそうな予感する」  軽くショックを受ける。俺は勝負する前から、イーチに敗北だ。なんせ俺がイーチに勝てるのは、勉強だけだ。  ――きっと、ミズキはイーチと付き合うんだろう。  俺はそう思うと切ない。しかし、いつかこういう日が来る事はわかっていた。想定内だ。  平静を装い、俺は言う。  「マジかぁ。イーチかぁ。良いじゃないか。イーチだろう? イーチなら男の俺でも付き合いたいよ」  俺はイーチとミズキが付き合ったら切ないが、イーチとミズキはお似合いだと思う。  ――大丈夫、俺は頑張れる。耐えられる。ミズキの幸せを見守れる!  しかしミズキの表情は浮かない。  「うーん」  「嫌なの?」  「嫌って言うか。サエちゃんが、イーチを好きなんだよ」  「え? サエ? サエには高望みだろう? なんでサエとイーチが付き合えるんだよ」  「サエちゃんは、明るいし、可愛いし。人気もんだよ」  俺はサエの顔を思い浮かべながらいう。  「まぁ、人気はあるんだろうけどなぁ……」  サエは男子とは気軽に話すし、そう言う意味では人気あるけど、女扱いはされにくい。  「サエちゃんがイーチを好きなのに。私が付き合えないよ」  「まぁ、そうだよね。分かるよ」  ――俺はミズキに同情した。サエの好きな男に告られたとバレたら、それだけでサエに相当キツく当たられるだろうし。最悪仲間外れにされる。 「それに私には好きな人いるし」 「え? 好きな男がいるの」  初耳だった。  ――俺は大丈夫。俺は耐えられる。いずれ通る道だ。  ミズキがオレの顔を、主人を見つめる犬のように見て「うん、好きな人いるんだ」と言った。    ――待て、待て、待て。好きなやつへの想いを俺にぶつけないでくれ。その表情、可愛過ぎて俺には毒だろう。  ……と俺は思う。  「でもまだ、イーチに告られるって、決まった訳じゃないだろう?」  ミズキは眉毛をヘの字に曲げた。それがまた可愛い。  「1年の時。イーチくんが、バレンタインの数日前に、私に言ってきて……」  「なんて?」  「チョコ欲しいなって」  「それで」  「イーチくんなら、手に持ちきれないほどチョコ貰えるよって言ったの……」  「うん、それで」  「イーチ君がこう言ったの。俺は、沢山の人からチョコが欲しいんじゃないんだよ。1個でいいんだ。唯一人の女の子からだけチョコが欲しいんだ。それ以外のチョコは、意味なんてないんだ。ただのチョコだよって」  
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