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俺は頭がクラクラした。
「いい男しか言えない言葉だ」
「そうだね」
俺は気を取り直して言う。
「俺はイーチみたいな事を言えないけど。俺はミズキから毎年貰っているから。イーチを羨ましがらないで済むよ。今年もミズキの手作りチョコを貰えたし」
「うん、チョコ作るのに、毎年いっぱい時間がかかってるんだよ」
ミズキは幼稚園の時から、毎年バレンチョコを手作りしてくれている。習慣っていうやつだ。
「ありがとう。義理でも嬉しいよ」
ミズキの表情が曇る。
表情が曇ったのを見て、俺はマズいと思う。ミズキはイーチと会う事を心配しているのに、何時までも余計な話を俺がするからだ。
俺は話しをイーチに戻した。
「それで、イーチとはその後どうしたの?」
「もちろん、無視したよ」
「あー、無視かぁ」
俺はイーチが気の毒になる。女なら捨てるほど寄って来るイーチには、アプローチした女に無視されるなんて、なかなか味わえない痛みだろう。
「うん。無視して、チョコも上げてないよ」
「じゃ、分かるよなぁ。振られたってさ」
「だよね。でも、諦めてなかったみたいで。今日、呼ばれたの」
「はぁ……。それで俺にどうせいと言うねん」
「一緒に来て」
「俺が行ってどうするの? 部外者だよ」
「部外者じゃないよ」
部外者じゃないよと言われ、俺は一瞬固まる。そしてこう理解した。
――昔ながらの友達、と言う意味で言っているんだな。
ミズキが必死な顔つきで言う。
「ねぇ、一緒に来て。私とイーチくんが、会うところを見ていて」
「会うところ見て、俺はどうするんだよぉ。俺、困るよぉ」
ミズキは涙目で、俺を見つめる。
俺とミズキは、それで1分ほど見つめ合った。
――そして、俺は負けた。
「あぁ。分かった。行く。行くけど。ちょっと離れた場所から見ているだけでいい?」
ミズキは俺の問には答えず、真剣な顔をして言った。
「ついてきて」
それで俺は、まぁ……、ちょっと離れた場所からと言う部分の同意を貰えないみたいんですが……、ついて行くわけです。
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