中編

3/5
前へ
/17ページ
次へ
 「そうです。大塚です」  「こんなのが好きなの?」  イーチの問いにミズキがうなづく。  イーチに表情が怒りに変わる。  「俺、言っとくけど。まだ何も言ってないから」    俺はイーチの言葉が一瞬理解できなかった。  しかし少し考えて分かった。  ――この告白を無かったことにしたいと言っているんだ。  もっとも、イーチは核心部分を何も言っていない。まだ何も無いと言えば、何もないとも言えた。  そして俺は穏便に終わらせたい。イーチの意向に異存はなかった。  「はい」  「好きだとも言ってないし。告白してもないから。だから俺は振られてないから。分かるよね?」  俺は同意する。  「はい。分かってます」    イーチは俺を睨み、凄みのある声で言う。  「こんなの何処が良いんだよ。身長いくつ? 俺より30センチは低いだろう? 顔だってさぁ!」  ――イヤイヤ、30センチは言い過ぎだろう。  俺はそう思いながら言う。  「すいません。背は低いし、その上、不細工です!」    イーチは声を更に荒らげた。  「絶対この事は誰にも言うなよ!お前みたいなモブのせいで、俺の恋愛が上手く行かなかったなんて周りに知れたら、俺のイメージに関わるかな。言ったら、分かってるよね?」  もはや脅しだった。でも俺は素直に返事した。  「はい。言いません。当然秘密です」  「ちなみにお前らの関係を、誰か知ってるの?」    ――俺とミズキに男女の関係などないんだから、ないものを誰かが知るはずもない。  「誰も知りません」  イーチがフッと笑い、ミズキに言う。  「そうだよね。いくら好きで付き合っていても、大塚くんみたいな男と付き合っているなんて、言えないよなぁ。恥ずかしくて言えないよね? そりゃ関係を秘密にするよね? 付き合っている男がいるって分かっていたら、呼び出しなんてしなかったよ! 男の趣味悪過ぎだろう! そんなのが好きなら俺は圏外だよな!」  そしてイーチがドシドシ音を立てて、階段を昇って去っていく。荒くれ者にしか見えない。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加