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「そうです。大塚です」
「こんなのが好きなの?」
イーチの問いにミズキがうなづく。
イーチに表情が怒りに変わる。
「俺、言っとくけど。まだ何も言ってないから」
俺はイーチの言葉が一瞬理解できなかった。
しかし少し考えて分かった。
――この告白を無かったことにしたいと言っているんだ。
もっとも、イーチは核心部分を何も言っていない。まだ何も無いと言えば、何もないとも言えた。
そして俺は穏便に終わらせたい。イーチの意向に異存はなかった。
「はい」
「好きだとも言ってないし。告白してもないから。だから俺は振られてないから。分かるよね?」
俺は同意する。
「はい。分かってます」
イーチは俺を睨み、凄みのある声で言う。
「こんなの何処が良いんだよ。身長いくつ? 俺より30センチは低いだろう? 顔だってさぁ!」
――イヤイヤ、30センチは言い過ぎだろう。
俺はそう思いながら言う。
「すいません。背は低いし、その上、不細工です!」
イーチは声を更に荒らげた。
「絶対この事は誰にも言うなよ!お前みたいなモブのせいで、俺の恋愛が上手く行かなかったなんて周りに知れたら、俺のイメージに関わるかな。言ったら、分かってるよね?」
もはや脅しだった。でも俺は素直に返事した。
「はい。言いません。当然秘密です」
「ちなみにお前らの関係を、誰か知ってるの?」
――俺とミズキに男女の関係などないんだから、ないものを誰かが知るはずもない。
「誰も知りません」
イーチがフッと笑い、ミズキに言う。
「そうだよね。いくら好きで付き合っていても、大塚くんみたいな男と付き合っているなんて、言えないよなぁ。恥ずかしくて言えないよね? そりゃ関係を秘密にするよね? 付き合っている男がいるって分かっていたら、呼び出しなんてしなかったよ! 男の趣味悪過ぎだろう! そんなのが好きなら俺は圏外だよな!」
そしてイーチがドシドシ音を立てて、階段を昇って去っていく。荒くれ者にしか見えない。
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