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俺はイーチを見送りながら言う。
「イーチの意外な一面を見たな。もっと穏やかなやつかと思っていた……。怖かったな」
俺が喋っても、ミズキから返事がない。
俺は視線をイーチからミズキに変えた。
するとミズキが泣いている。
「おい、どうした?」
「うっ……」
ボロボロとミズキの瞳から涙がこぼれる。
「あ、あぁ。大丈夫かぁ」
――怖くて、辛くなったのだろう。昔から大きな犬の鳴き声とか、雷の音とかを怖がったから。
俺がティッシュを出して、ミズキの涙を拭いた。
「うぅ……、違うから。ちゃんと言えるから。うぅ、うぅ……、ブサイクじゃないし、背も普通だから」
ミズキがなんとなく俺に寄り添い、手を握ってきた。
「あ、分かった。分かった。もう泣くなよ」
「恥ずかしくないし、30センチも低くないから」
「そうだよな。ありがとう」
「自分が情けない……。怖くて言い返せなかったぁ……。うぅ……、次はハッキリ言うから。」
「言わなくていいよ。言い返したら危ないから。もう、イーチには関わるなよ。俺を気遣ってくれて。それより、もう帰ろう。暗くなるよ」
俺は手を離そうとした。するとそれをミズキに拒まれる。
「手を繋いでくれないと、歩けない」
ミズキが目に涙をじゃぶじゃぶ流しながら言う。
「あ、涙で、目がよく見えないか……。涙は止まりそうにないの」
ミズキが頷く。
俺はミズキを気遣う。
「仕方ないなぁ。堤防下の道を、川上にずっと歩いて行けば、駅の側に出るから、このまま歩いて行くか? 土手下の川沿いの道は、犬の散歩の人くらいしが歩いてないから。このまま歩いても目立たないだろう。泣きながら俺なんかと、手を繋いで歩いているの見られたら、ミズキのイメージに関わるからなぁ」
ミズキが言う。
「私のイメージなんか、大したもんじゃないよ」
「そうかぁ?」
ミズキは泣き止まない。
「うっぅ……、そうだよぉ」
涙は止まらないミズキの気を紛らわせる為に、俺は他愛のない話しをする。
「手を繋ぐなんて何時ぶりかなぁ。幼稚園のときは、良く手を繋いだけどなぁ。幼稚園の時、楽しかったなぁ」
「……うん」
あの頃はミズキと、手を繋ぐのが、ただ嬉しかった。でも今はそれだけじゃなかった。
――ドキドキが止まらないんだ。
なんとか平静を保ち、ミズキと手を繋いで川沿いを歩いた。
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