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3日前の出来事を思い出している俺の耳に、サエの甲高い声が飛び込んできた。
「今からあたしは、イーチに告る! ヨシマイ、グロス貸して」
ヨシマイがグロスを渡す。サエは携帯のカメラ機能を鏡代わりに、グロスを塗った。唇が蜂蜜を塗ったみたいになった。
――いくらこれから告ると言っても、そのテカテカぶりはヤリ過ぎだろう。
と俺は思った。
サエは出陣前の武将のように凛々しい。
「行くよ。今なら朝練終わって、体育館の後ろにたむろしてると思う」
サエが立ち上がると、イマイシ、ヨシマイ、アサカワも立ち上がる。
その様は、今まさに出陣の時といった形相だ。
しかしミズキだけ座ったままだ。サエがミズキに言う。
「行くよ」
「告白するなら、うちらいないほうが」
それでイマイシ、ヨシマイ、アサカワが顔を見合わせる。サエは強引に誘う。
「いいから来て。一人だと、告白しないで喋りして終わりそう。お願い」
ヨシマイが仕方なさそうにいう。
「じゃ、行く?」
「うん、それじゃぁ」
ヨシマイがミズキに言う。
「行こうよぉ」
すると、ミズキはゆっくりたちがって、再び俺を見た。俺はやばいと思う。
「ちょっと、俺は行かないほうが」
「来て。お願い」
ミズキの揺れる瞳から、俺は逃れることが出来なかった。
俺はミズキに袖口を掴まれて、サエの告白をする戦場に連れて行かれた。
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