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《エピローグ》
六月初旬にあたるだろうか。
まだ雨の音がしない頃、怪しげな男たちがなにかを草木に投棄していた。
「これでいいのかよ?」
「うっせぇ! あの人の命令なんだから仕方がないだろ!」
「ったく……。こんなゴミの処理押し付けられるなんてな~。ついてねぇぜ……」
盛大にため息を吐いてなにかを処理し――男たちは去った。
……そのなにかは動いていた。
だが左半身が欠損していて動くことはない。
ただ、彼の意識は今だけはっきりとしていた。
「俺は……捨てられたのか、マスターに。俺が、駄目な存在だから……かな?」
青年は茶髪の髪をなびかせては草木に身じろぐ。ジャスミンのような香りに包まれて意識を奪われる――どことなく思考をショートするのも悪くないと考えた。
今は考えられるし、話せる。でも、もう少し経てば……、
「俺は、人間でいう……死ぬ運命なんだな」
端的に言えばそうであった。だが受け入れられている。
青年、AB77-2005は白い花々に包まれ瞳を閉じた。片目しかないのでたやすいものだ。
(あぁ、俺はどういう存在に生まれ変わるのかな)
――なんてね。
青年の口元が緩み――停止した。
「……なんだ、これ?」
深夜に一人の男が通りかかった。なびかせた硬質な黒髪がそのモノに近づき……触れる。右頬に触れていくと、その物体は男に反応したかと思えば、草花の力を借りて再生をしていく。
――生まれ変わるように、左半身が修復されていく。
「…………こいつは、もしかして?」
男は思い当たる節があった。だから男は見届けた。
白い花が咲き乱れる花々に癒され、身体を作り上げる青年を抱えてベッドに運ぶまで。
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