●お礼のハグ

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 お互いに無言で作業をするのに、気まずさを感じない。横目でまこを見てみると、パーカーのめくられた袖から見える腕が細くて驚いた。渋谷であったとき、オフショルダーから見えた鎖骨も綺麗だったけれど、折れそうで心配になる。 「……ごめん。爪、気になる?ビニール手袋買えばよかったね」 「気にしてないよ。可愛いね」 「えへへ、男の人はあんまり好きじゃないみたいだけど、これみて仕事頑張るようにしてるんだ。今回は、宇宙空間のイメージで作ってもらったの!」  そういって、爪を見せてきた。ロケットや宇宙飛行士、宇宙人が描かれている。可愛らしいネイルだった。 「ネイル好きなんだ?」 「うん、みこが……妹なんだけど。私が社会人になりたてで、仕事とみこの世話でなんかもう疲れ果てちゃったときにね、ネイルしてくれたの。ぼろぼろな手に、全然似合わないオレンジのマニキュアだった。でも仕事中にそれを見ると、なんかちょっと癒やされて、頑張ろうって思えたんだよね。そこから、ネイルは元気の源になってるの」 そういって、微笑むまこは、とても優しいお姉さんの顔をしていた。妹のことを大切にしてることが伝わってくる。この子に一目惚れをしたのは、きっと醸し出される優しさを感じたからというのも理由のひとつなのかもしれないと思った。
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